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11/3投稿分のつづき
CHILDREN OF GROUND
第1章 沈黙の森
2:少女
:
「カシスって優しいんだね」
「私が火を焚くから、休んでいて」
フィアは、落ち葉やら枯れ枝やら燃えそうなものを適当にかき集めると、一言呪文を唱えた。彼女の指先から火球が生じ、火起こしよりもマッチよりもはやく、あっという間に見事な焚き火を作り上げた。
「……便利だな」
カシスは、しょんぼりとして温かな焚き火のそばに腰をおろした。
* * *
完全に日が暮れてから、三人は夕食を取った。フィアが持っていた干し肉を軽く火であぶり、クノンが持っていたパンも同じように焼いてから食べた。
「どうした?」
干し肉を口に放り込みながら、カシスは訊いた。クノンはすまなさそうな顔を浮かべていった。
「カシス。僕、カシス言いかけたことがあったよね?」
カシスは記憶にひっかからなくて、頭を掻いた。クノンは、覚えてなくてもいいんだけどね、と言って続けた。
「あのね。カシスの荷物。見つけたよ」
カシスは立ち上がった。そのままもと来た道を引き返そうとしたところで、クノンに呼び止められた。
「いまさら戻ってもしょうがないよ」
クノンは疲れたようにため息をついた。実際疲れているのだろうが。
「だから、言おうと思ったら沈黙鳥が襲ってきたんだって」
パンを片手にカシスは頭を抱えて座り込んだ。確かに、今戻ってもしょうがない。第一もう夜だし、それに、まだ沈黙鳥がいるかもしれない。もしかしたら、もっと危険な魔物がいるかもしれない。何より、今引き返せば、本命の《沈黙の石》探索に支障が出る。
カシスが小さくなっていじけていると、フィアが疑問の声を発した。
「……あなたのだったの?」
クノンが訊くと、フィアは気まずそうに答えた。カシスは立ち上がって彼女をみた。
「ええと、エキドナから出てきた」
クノンは少しぞっとした顔をした。
「餌食になった人の物だと思ったから。使えそうなら拝借しようかなって」
なかなかなことをさらりと口にすると、彼女は荷物から何かを取り出し、カシスの方に放った。
クノンがにこにこと笑った。カシスは片手でコンパスを弄びながら、じとっとした目をフィアに向けた。
「……これだけか?」
ぴく、と一瞬だけフィアの動きが引きつった。すぐ、何事もなかったように、茶葉の入った缶を開け始めた。
「どういう意味かしら」
揚げ足をとると、フィアの手が止まった。手ごたえを感じて、カシスはニヤリとした。コンパスを軽く放って、また受け止める。
エキドナを倒したあとだ。比較的すぐにカシス達は追いついた。あまり吟味する時間はなかったろう。すぐ目に付くもので、持ち運べそうなもの。
フィアは多少乱暴に荷物に手を突っ込むと、皮袋に納めたそれを放ってきた。業物のナイフだ。相手を見て売れば、それなりの小遣いにはなるはずだ。
「投げるなよ、危ねぇな。刃物だぞ」
それらを大事に抱えながら、カシスは付け足した。
「俺の財布」
今度は投げつけてきた。カシスは、慣れ親しんだわりと軽い麻袋を開いた。
「カシス、それはさすがに」
苦笑いをしながらクノンが言うのを、カシスは聞いてなかった。フィアを半眼で睨む。
「何よ」
フィアが首を傾げた。今更猫をかぶっても遅い。
「いつか売ろうと思ってた砂金のカケラが一個足りねぇじゃねぇか!!」
フィアが淹れた茶を飲みながら、2人はまだ言い合っていた。
「財布の中身までチェックするかしら」
フィアが盛大にため息をついた。
なんとなく、会話の間が空いた。薪がはぜる音が大きく聴こえた。
ふと思いついて、カシスは誰ともなしに訊ねた。
「なぁ。さっき言ってた、なんとかツカイってなんだ?」
目を輝かせながら、クノンが嬉々として解説をはじめた。薀蓄が好きらしい。
「魔法とは違うんだ。魔法は、精霊石がないと使えないけど、《聖法》は違う。生まれついた力で、光を操ることができる、って本で読んだことがある。効果は絶大で、時には傷を癒すこともできるらしいけど」
ふうん、とカシスは頷いた。
精霊石とは、魔法を使うには必須の結晶である。幾つか種類があり、火の精霊石を持っていれば火の魔法が、雷の精霊石を持っていれば雷の魔法が使えるのだが、実際細かい理屈は、カシスにはわからない。クノンの杖の頭につけられている宝玉や、彼のローブに施してある意匠のいくつかも精霊石である。
「使い手がほとんど居ないから、確立された分野ではないんだ。でも、特徴ある異能だから呼称があるんだよ。ね、フィア?」
「ええ、そうね。うん」
と頷いた。
ふと思いついて、カシスは何気なく訊いてみた。
「《聖法》って、さっきの白い光でも、火でもなんでも起こせるのか?」
クノンが驚いたように息をひきつらせた。
「さっき、魔法で焚き火をつくったろ?」
クノンの目がまた輝いた。彼女は苦笑して肩をすくませた。
「……ごめん。あまり、いい思い出がなくて。何も訊かないで」
クノンは残念そうだったが、それ以上追及しようとはしなかった。彼女の目が、暗い色を帯びていたせいだろう。
フィアは、カップに残った茶を一気に飲み干すと、既に敷いてあった寝袋にもぐりこんだ。
「先に休むわ。おやすみ」
そして、一分としないうちに、深い寝息が聞こえてきた。
「……悪いこと訊いちゃったのかな?」
カシスはぬるくなった茶を啜った。
――あまりいい思い出がなくて。
それがどういう意味なのか。あの目の暗さの理由は、それなのか。
そういえば、どうして彼女は一人でこんな森に来たのだろう。
尋ねるべき問いに気づいたときには、もはや彼女は完全に寝入っていた。
-----------------
つづく。
RingBellの更新はもうちょっと。
第1章 沈黙の森
2:少女
:
フィアの提案で、日暮れまでにできるだけエキドナから離れることにした。
カシスもクノンも、二人とも動くのが精一杯だった。が、魔物に会ってもフィアが一蹴してくれるので、日が暮れ始めるまでの二、三時間をなんとか歩きとおした。
「カシスって優しいんだね」
「は?」
突然隣でクノンが囁いた。それがちょうど太く張り出した木の根を跨ごうとしたときで、それでカシスは強か足を打った。痛みに顔をしかめながらクノンを睨むと、彼は笑っていた。
「フィアのこと。見直したよ」
「いつも優しいだろ、俺は。何言ってんの?」
舌打ちとともに、ピッチをあげてクノンと離れた。なんとなくクノンがくすくす笑っているのが気配でわかった。
先行していたフィアがふいに立ち止まった。何か聞きとがめられたのかと思って、カシスはドキリとした。
先行していたフィアがふいに立ち止まった。何か聞きとがめられたのかと思って、カシスはドキリとした。
「ここら辺で野宿にする?」
フィアにそう言われても、うなずくことしか出来なかった。体力は限界だ。
「私が火を焚くから、休んでいて」
「いや、俺がやるよ」
疲れてはいたが、カシスはそう言って立ち上がった。なんというか、彼女一人に頼りっぱなしなのは気が引けるというか、自分が情けなく思えてくるというか、複雑な男気がそうさせた。
フィアは、落ち葉やら枯れ枝やら燃えそうなものを適当にかき集めると、一言呪文を唱えた。彼女の指先から火球が生じ、火起こしよりもマッチよりもはやく、あっという間に見事な焚き火を作り上げた。
「……便利だな」
カシスは、しょんぼりとして温かな焚き火のそばに腰をおろした。
* * *
完全に日が暮れてから、三人は夕食を取った。フィアが持っていた干し肉を軽く火であぶり、クノンが持っていたパンも同じように焼いてから食べた。
「あっ」
ちょうど、小さなやかんを使ってフィアがお茶を淹れようとしたときだった。クノンがパンをかじりかけたまま、小さな悲鳴をあげた。
「どうした?」
干し肉を口に放り込みながら、カシスは訊いた。クノンはすまなさそうな顔を浮かべていった。
「カシス。僕、カシス言いかけたことがあったよね?」
「ん? なんかあったっけ?」
カシスは記憶にひっかからなくて、頭を掻いた。クノンは、覚えてなくてもいいんだけどね、と言って続けた。
「あのね。カシスの荷物。見つけたよ」
「何!? どこで」
「さっきの、エキドナのところ――って、待ちなよ、カシス」
カシスは立ち上がった。そのままもと来た道を引き返そうとしたところで、クノンに呼び止められた。
「いまさら戻ってもしょうがないよ」
「お前って奴は……なんでもっとはやく言わねぇんだよ!」
クノンは疲れたようにため息をついた。実際疲れているのだろうが。
「だから、言おうと思ったら沈黙鳥が襲ってきたんだって」
「くそ! 俺の荷物! 俺の荷物が!」
パンを片手にカシスは頭を抱えて座り込んだ。確かに、今戻ってもしょうがない。第一もう夜だし、それに、まだ沈黙鳥がいるかもしれない。もしかしたら、もっと危険な魔物がいるかもしれない。何より、今引き返せば、本命の《沈黙の石》探索に支障が出る。
カシスが小さくなっていじけていると、フィアが疑問の声を発した。
「……あなたのだったの?」
「え? 知ってるの?」
クノンが訊くと、フィアは気まずそうに答えた。カシスは立ち上がって彼女をみた。
「ええと、エキドナから出てきた」
「エキドナから出てきたって……」
クノンは少しぞっとした顔をした。
「餌食になった人の物だと思ったから。使えそうなら拝借しようかなって」
なかなかなことをさらりと口にすると、彼女は荷物から何かを取り出し、カシスの方に放った。
片手で受け取ると、あの新調したばかりのコンパスだった。
「返すわ。気が引けるから」
「よかったね、カシス」
クノンがにこにこと笑った。カシスは片手でコンパスを弄びながら、じとっとした目をフィアに向けた。
「……これだけか?」
ぴく、と一瞬だけフィアの動きが引きつった。すぐ、何事もなかったように、茶葉の入った缶を開け始めた。
「どういう意味かしら」
「使えそうなものはコンパスだけじゃなかったと思うが。っていうかコンパスより使えそうなもの、結構あったよな?」
「コンパスは売るつもりで――」
「ほう。コンパス『は』、か」
「……」
揚げ足をとると、フィアの手が止まった。手ごたえを感じて、カシスはニヤリとした。コンパスを軽く放って、また受け止める。
エキドナを倒したあとだ。比較的すぐにカシス達は追いついた。あまり吟味する時間はなかったろう。すぐ目に付くもので、持ち運べそうなもの。
「使わずに売る、か。なら…ナイフだな。どうだ?」
フィアは多少乱暴に荷物に手を突っ込むと、皮袋に納めたそれを放ってきた。業物のナイフだ。相手を見て売れば、それなりの小遣いにはなるはずだ。
「投げるなよ、危ねぇな。刃物だぞ」
「意外と物覚えがいいのね」
「覚えてなくてどうすんだ。自分の物だぞ」
それらを大事に抱えながら、カシスは付け足した。
「俺の財布」
今度は投げつけてきた。カシスは、慣れ親しんだわりと軽い麻袋を開いた。
「カシス、それはさすがに」
苦笑いをしながらクノンが言うのを、カシスは聞いてなかった。フィアを半眼で睨む。
「何よ」
「俺のとっておき。取ったろ?」
フィアが首を傾げた。今更猫をかぶっても遅い。
「いつか売ろうと思ってた砂金のカケラが一個足りねぇじゃねぇか!!」
「本っ当にもの覚えがいいわね!!」
* * *
フィアが持ち出したのはそれだけだった。カシスは、しがない宝物を並べる子供のように、丁寧にその3つの品を傍らに置いた。
「全く、油断も隙もならねぇ」
「こっちの台詞よ」
フィアが淹れた茶を飲みながら、2人はまだ言い合っていた。
「財布の中身までチェックするかしら」
「お前な。俺は今すっからかんなんだぞ。ちっとでも多く必要なの。貧乏人から踏んだくろうなんて、鬼かお前」
「誰だって必死なのよ…生きていくために」
「何を綺麗にまとめようとしてるんだよ」
フィアが盛大にため息をついた。
なんとなく、会話の間が空いた。薪がはぜる音が大きく聴こえた。
ふと思いついて、カシスは誰ともなしに訊ねた。
「なぁ。さっき言ってた、なんとかツカイってなんだ?」
「《聖法》のこと?」
目を輝かせながら、クノンが嬉々として解説をはじめた。薀蓄が好きらしい。
「魔法とは違うんだ。魔法は、精霊石がないと使えないけど、《聖法》は違う。生まれついた力で、光を操ることができる、って本で読んだことがある。効果は絶大で、時には傷を癒すこともできるらしいけど」
ふうん、とカシスは頷いた。
精霊石とは、魔法を使うには必須の結晶である。幾つか種類があり、火の精霊石を持っていれば火の魔法が、雷の精霊石を持っていれば雷の魔法が使えるのだが、実際細かい理屈は、カシスにはわからない。クノンの杖の頭につけられている宝玉や、彼のローブに施してある意匠のいくつかも精霊石である。
「使い手がほとんど居ないから、確立された分野ではないんだ。でも、特徴ある異能だから呼称があるんだよ。ね、フィア?」
「え?」
突然話を振られて、フィアは変な声をあげた。すぐ状況に気付いたらしく、
「ええ、そうね。うん」
と頷いた。
ふと思いついて、カシスは何気なく訊いてみた。
「《聖法》って、さっきの白い光でも、火でもなんでも起こせるのか?」
クノンが驚いたように息をひきつらせた。
「さっき、魔法で焚き火をつくったろ?」
「そうなの、フィア?」
クノンの目がまた輝いた。彼女は苦笑して肩をすくませた。
「……ごめん。あまり、いい思い出がなくて。何も訊かないで」
クノンは残念そうだったが、それ以上追及しようとはしなかった。彼女の目が、暗い色を帯びていたせいだろう。
フィアは、カップに残った茶を一気に飲み干すと、既に敷いてあった寝袋にもぐりこんだ。
「先に休むわ。おやすみ」
そして、一分としないうちに、深い寝息が聞こえてきた。
「……悪いこと訊いちゃったのかな?」
「そうかぁ?」
カシスはぬるくなった茶を啜った。
――あまりいい思い出がなくて。
それがどういう意味なのか。あの目の暗さの理由は、それなのか。
そういえば、どうして彼女は一人でこんな森に来たのだろう。
尋ねるべき問いに気づいたときには、もはや彼女は完全に寝入っていた。
つづく。
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