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免許更新してきたぜ!
最近の免許証はICとか入ってるんだねびっくり。

11/16投稿分のつづき


CHILDREN OF GROUND
第1章 沈黙の森
3:最奥へ



『駆るは、煉獄の獣魔!』

 一人と一匹の間の闇を切り裂くように、頭上から降った赤々とした火炎が魔物を一息に喰らった。顔面に熱風がぶつかり、思わずカシスは目を閉じた。

 ざっ、とすぐ左で地面が擦れる音がした。ぼやけた視界に入ったのは紫のローブ、そして杖の先端。クノンだった。彼の脇に座り込み、精霊石のついた杖の先を魔物に向けている。

 一匹が倒されるや否や、やはり無音で魔物達は一斉に踊りかかってきた。

 フィアが深緑色の外套と、その緑の髪をひらめかせながら立ちはだかっていた。彼女は鋭く呪文を唱え、左腕を振りかざした。

 刹那、彼女を中心に、目をやかんばかりの純白の光が波紋のごとく打ち出された。魔物らは、光に触れるやいなや、その姿形を崩し、何の変哲も無い土塊に変じた。

 光が消えると、辺りはまた薄暗いだけの静かな森になった。

「やれやれ……大丈夫? カシス」

 構えを解いて、クノンが顔を覗き込んできた。

 カシスには、憎まれ口一つ叩く余裕もなかった。右足の痛みが限度を越えている。頭痛もした。顔の半分は、濡れたような不快な感触がある。この生臭い匂いからして、出血しているようだ。めまいを覚えて、カシスはきつく目を閉じた。

 物音がして、まぶたの向こうでほの温かい明かりが灯った。おそらく、火をいれたランタンだろう。

「大丈夫? どうかしたの?」

 フィアの声だけが聞こえてくる。

「なんていうか……右足が折れてるし、頭も軽く裂けてる。意識もあるのかどうか……カシス? 声が聞こえる? 僕が誰かわかる?」

 クノンの不安が声に表れていた。彼は、横倒しになっているカシスを楽な態勢に動かした。その時、カシスは脇腹に引きつったような激痛が走った。この分だと、肋骨にもひびが入っているのだろう。

 失態もいいところだ。恥ずかしいやら、痛いやらで目がまわる。

 側頭部に、何かが押し当てられる。ガーゼだろう。カシスは何とか片手を動かして、自らそれを押さえた。そのころには、何とか口が利けるようになった。

「……大丈夫だよ。ちっと息が詰まっていただけだ」

 首を動かして、クノンを見やる。ランタンの火に赤々と映し出された彼の童顔が目に入った。まだ少し、世界が揺れている。

「カシス……」
「これじゃあ、先に進めそうに無いな。くそ」

 傷ついた部位に負担をかけないようにして体を起こし、崖壁に身をもたれかけさせる。恨めしい気持ちで右足を眺めると、なるほど、膝の下辺りから先が明後日の方向を向いている。

 クノンは、添え木や包帯を取り出すことはなく、ただじっとフィアの方を見た。

「何?」
「《聖法》には、傷を癒す力があるって聞いたことがある」

 カシスもフィアを見た。クノンの言わんとしていることは、なんとなく解った。
 何も答えず、彼女は目を伏せた。クノンが追いかけるように言った。

「フィア。力を貸してよ。君なら、カシスを治せるよね?」
 
 フィアは答えなかった。躊躇っていた。

 そんな便利な能力が、この世にあるなど初めてきいた。が、今のカシスは、藁にもすがる想いだ。

「できれば、頼む。このままだと進むことも退くこともままならない。」
 
 足の痛みは限界を超えていた。

 フィアは観念したように頷いた。そのまま、カシスから一歩離る。クノンにも離れるように、手を振った。

 クノンは、できれば間近で見たそうにしていたが、大人しくフィアの隣ほどまで離れた。
 
 一人うずくまり、カシスはこれから何が起こるのか、多少心が躍っていた。魔法で傷を癒すって、どんな感じなんだろう。

 深呼吸をすると、フィアが呪文を唱え出した。普段の詠唱よりはるかに長い。まるで詩人が歌うようだった。凛とした声が、伸びやかに朗々と響く。聞き入っていると、カシスの右足が柔らかな白光に包まれた。そして。

「いっ……!?」

 何をされたのかわからなかった。

 もしも、いきなり文字通り足を引きちぎられたならこんな感覚がするかもしれない。あるいは、たった今骨折した部位を強か殴られてあまつさえ踏みにじられたらこんな感じかもしれない。むしろ、足の神経という神経をことごとく空気にさらされたなら、きっと同じ気分だろう。

 ふと、体が軽くなって、世界も白い光で塗り潰され――

「――シス! カシス!! 大丈夫!?」

 次に目を醒ました時には、誰かに思いっきり肩を揺さぶられていた。クノンである。

 どうにか、体を起こす。さっきまでいた場所だった。その場で昏倒したらしい。

「俺は……?」

 額に手を置き、ぼんやりしたまま、それだけ呟く。

「骨折なら治したわよ。気絶してるうちに、肋骨も治したわ。頭は止血だけしたけど、一週間ぐらいで治るんじゃないかしら。よかったわね」

 素っ気無い、その声を聴いて。

「てめー!!」

 カシスは跳ね起きて声の主に詰め寄った。フィアはすぐ側で、優雅に腕を組んで岸壁にもたれかかっていた。

「それだけで済むと思ってんのか! お花畑の向こう岸でばあちゃん手ェ振ってたぞコラ!!」
「そんだけぴんぴんしてれば上出来ね」
「ふざけんな!」

 きっ、とフィアが睨み返してきた。

「だから嫌だったのよ。絶対文句言われるし、殴られたり引っ掛かれたりするし!」

 どおりで。痛みでカシスが暴れるのを警戒して、離れたところから呪文を唱えたわけだ。

「文句言うに決まってんだろ、ドアホ!」
「ド―― あんたが自分で頼んだんじゃないの!」
「気絶するほど痛むと知ってりゃ、誰が頼むか! わざとやってんのか!?」
「光だからよ」
 
 不意に、フィアが声を低くした。調子を崩されて、カシスも口をつぐむ。真面目な顔つきで、彼女は続けた。

「光は、全て照らし出す。辛いことも痛いことも、闇に葬っておきたいこと何もかも。だから痛むの。わかる?」 

 わかるもなにも。話の筋が百八十度変わってしまい、カシスは面食らって、ぽかんとしてしまった。

「傷と向き合うこと、痛みを克服することが、光による治癒なの」

 そのままフィアはそっぽを向いた。

「でも、真性の光なら、きっと痛みなんか……」

 フィアは何か言いかけてやめた。忘れろ、と言わんばかりに手を振る。

 改めて、彼女はカシスを見ると、小首を傾げた。

「それで?」
「なにが?」

 訊き返す。彼女は面白がるような目つきをした。初めて、少女の顔に表情らしい表情が浮かぶ。 

「言うべきことは、それだけ?」
「う……」

 その意を悟って、カシスは思わず呻き声をあげてしまった。不満は多いが、彼女が傷を治してくれたのは事実だ。が、あれだけ罵ったあとに改められると、気まずい。

「……悪かったよ」
「ふうん?」
「……どうも助かりましたありがとうございます」
「うん」

 そう頷いたとき――ただランタンの穏やかな明かりがそう見せたのかも知れないが――、初めて自然に微笑んだように見えた。

 ふいに、彼女に見入っている自分に気付いて、慌てて顔を背ける。

「ついでに頭の怪我も全部ふさいでくれりゃいいのに」

 手探りで傷の具合を確かめると、かさぶたになっている切り傷がある。フィアの言うとおり、すぐ治るかもしれない。だが、触れた具合では5センチはあるだろう。さっきまでこれが開いていたかと思うとぞっとする。

 フィアは肩をすくめた。

「してもいいけどね。あんまり刺激を与えない方がいいかと思って」
「へぇ」

 そんなものか。確かにあんな痛みが頭に響いたらおかしくなってしまいそうだ。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

 クノンが切り出した。カシスも頷いて、そばのランタンを手に取った。多少違和感があるものの、足には何の痛みも無かった。

 カシスは頭上を見上げた。崖の先端でも見えやしないかと思ったが、どうも、ランタンの明かりが届かないほど高いらしい。よくもまあ、命があったものだ。

「お前ら、どうやって降りてきたんだ?」

 思わずカシスは訊いた。まさか、飛び降りてきたわけじゃあるまい。

 クノンがこともなげに答えた。

「いや? 普通に魔法で。カシスがいきなり一人で飛び降りたりするから」

 つくづく、魔法というのは便利なものだ。

「引っ張り込まれたんだよ」
「勝手に離れるからよ」

 おもわず言い返すと、フィアが冷たく水を差した。
 
 あえてとりあわずにカシスは違うことを口にした。

「それで、上に戻る必要があるか?」
「このまま進もう」

 フィアが断言した。ここは谷になっているわけで無く、崖から先は今までと同じように森が続いている。彼女は、ちょうどさっきの魔物が土塊に変じた場所を眺めていた。

「私の勘だと、《石》は近くにあるような気がする」
「勘? 根拠は?」

 カシスが訊くと、フィアは視線を動かさずに続けた。

「今の……魔物。石と関係があると思うの。少なくとも、生き物じゃなかった。土塊だったわ」
「まぁ、な」

 腕組みをしながら頷く。

 珍しくクノンは意見を言わずに押し黙っていた。物思いにふけっているようだ。

「そうだね。あの魔物、調べるべきだね」
 
 クノンはそれだけ言った。意見がまとまった。
 
 やはりフィアが、自前のランタンを片手に、先頭を切って歩き出した。

「ところで、フィア。《聖法》について、もうちょっと詳しく語る気はない?」

 クノンの提案は黙殺された。

 ランタンの小さな明かりなど頼りなくなるほどに。闇はさらに深く、濃くなっていく。

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分けるのがめんどくさかったのでまとめて投稿。
つづく。
 

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