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同時進行で別の作品も。
こっちもファンタジーです。エセ怪盗モノです。


RingBell 1
:Tear Of Blue Snow



:プロローグ

 彼の目に移ったのは、いままで見たこともないような幻想的な光景だった。

 見るもの全ての目を洗い清めるような、青。
 満天に広がる夏の星空のように、青い輝きが煌き、降り注いでいた。彼の肩に、髪に、輝きは触れると、淡雪のように消えてしまった。夜の森は青色の淡く染め上げられ、木々が、草花が、腐葉土に覆われた地面さえも自ら光っているようだった。
 
 輝く世界の中心で、女性がひとり佇んでいた。その切れ長の双眸を伏し目がちに閉じ、豊かな髪をなびかせ、手は指を絡め胸元で組んでいた。まるで、祈りを捧げる聖女のように。微笑みを浮かべ潤んだその口元さえも清らかに彩られ美しい。

 その全てに魅入って、ただ呆然と座り込んでいた。彼は止めることも、叫ぶことも、泣くことも忘れていた。
 
 はっ、と息をのんで地を蹴った。次の瞬間、輝きは消え、女性は膝から崩れ落ちた。すんでのところで、彼女を抱きとめる。腕の中の女性は、先ほどの微笑みとは打って変わって、青白い顔に苦悶の表情を浮かべていた。

「馬鹿! なんで―― なんて無茶をしたんだ!」
「ふふ…でも、上手くいったわ」

 彼女はかすれた声で笑った。明らかに衰弱している。どうして、彼女がここまでする必要があっただろう。どうして。
 
「そんな無理していい身体じゃないだろ! 死んだらどうすんだ!?」
 
 おもわず口走る。気づいたときには遅かった。彼女の黒い瞳は、驚きで揺れていた。

「知っていたの?」
「……ああ」

 ごまかしても仕方がない。彼は頷いた。目が霞んで、彼女の顔をまともにみることができなかった。冷え切った体を抱きしめながら、彼は肩を震わせた。わからなかった。彼女がなぜ、自ら進んで重荷を背負ったのか。ただ悲しかった。その彼の手を、彼女の細い指がそっと撫でた。

「そう… じゃあ、お願いがあるんだけど」
「……なに?」

 お願い、などという言葉を彼女が口にするとは。いつだって、ひとりで何でもこなしてしまうのに。彼女が彼を頼ることなど、めったに無い。

「あなたが…あなたさえ嫌でなければ」

 彼女の声は震えていた。彼女の指が今度は彼の頬に触れる。思ったより、その手は暖かだった。驚いて彼女のをみつめ返す。

 穏やかな微笑みが、そこにはあった。

「わたしの…わたしと、この子の傍にいてくれないかしら」

 頬の手が滑りおち、彼女の下腹を撫でる。
 
 彼はうなずいた。誓いの言葉すら舌に乗らない。何か別なものが彼の喉を塞いで痺れさせてしまった。
 
 せめてこの思いが彼女に伝われば良い。そう思って何度も頷いた。
 
 言われなくても、ずっと前から心に誓っていたこと。
 
 彼女のために、この命を捧げよう。

 こらえきれず、涙が零れ落ちた。
 
 触れる彼女の指先の感触を、彼は生涯、忘れることができなかった。

--------------
to be continued...

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