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11/2投稿分の続きです。
CHILDREN OF GROUND
第1章 沈黙の森
2:少女
:
沈黙鳥達は、一斉に少女に襲いかかった。
第1章 沈黙の森
2:少女
:
沈黙鳥達は、一斉に少女に襲いかかった。
あの声を奪う鋭い鳴き声が響き渡った。カシスはまた耳を覆った。頭にハリが刺さったかのように痛んだ。
しかし、フィアは、左腕を掲げると、はっきりと何事か唱えた。そして、閃光が再び沈黙鳥に襲いかかった。何匹かはひらりとかわした。避け損ねたものは全て光の中に消えうせた。
彼女は外套を跳ね上げ、右腕を突き出した。その手には、一振りの剣が握られていた。刀身はやや短いが、肉厚で、軍刀のようだ。先ほどの閃光のように、刃は曇りひとつなく白く輝いている。
生き残った三匹が、風を裂いて彼女に向かっていく。
フィアは、三匹と真っ向から対峙した。近づいてきた沈黙鳥を、一瞬の交錯の内に全て切り捨てた。
まるで舞うように、鮮やかに。揺らぎのない、洗練された動きだ。
まるで舞うように、鮮やかに。揺らぎのない、洗練された動きだ。
沈黙鳥は、断末魔の叫びもなく、もはやただの塊となって地を転がり、二度と動かなかった。
フィアは眉一つ動かすことなかった。冷たい表情のまま剣を片手に提げている。
飛散した青い羽が、音も無く降り注ぐ。
一瞬の、沈黙。
一匹が、鳴きながら森の奥へと姿を消した。つられるように、ほかの沈黙鳥も次々と去っていく。
喧騒はやがて聴こえなくなり、あたりに静寂が戻った。
全て居なくなるのを待ってから、フィアは構えを解いた。剣を持った手を外套の内に隠した。その手が次に現れたときには、もう剣はその手になかった。
(……?)
カシスは訝しく思ったが、それどころではなかった。声も出ず、頭も痛い。座り込んだまま、じっと彼女を見つめていた。クノンも似たように座り込んだままじっとしている。
フィアは、自分の耳元を探りながら近寄ってきた。耳から詰め物を取り出している。何か魔法による細工が施してあるようだ。それで、彼女は声を奪われずに済んだのだろう。
カシスのすぐそばで、彼女は荷をおろした。詰め物をしまう代わりに、手の平サイズの小瓶を取り出す。蓋を開け、彼女はそれを差し出して言った。
カシスのすぐそばで、彼女は荷をおろした。詰め物をしまう代わりに、手の平サイズの小瓶を取り出す。蓋を開け、彼女はそれを差し出して言った。
「声が出るようになる薬よ。二人で分けて」
言われた意味を数秒かけてのみこんで、カシスは小瓶を受け取った。
何の疑いもなく、思い切って一口飲んだ。飲んでカシスは戻しそうになった。
「うげぇ」
「声が出るようになったわね」
油をそのまま飲んだような口あたりに、甘酸っぱい刺激があって、なんともいえないほどまずい。最悪な気分だ。胸がむかついてきた。頭は痛いし、吐き気がするし、このまま気絶したかった。
咳払いをして気分をごまかすと、小瓶を無言でクノンに突き出す。クノンは嫌そうな顔をしていたが、半ばやけくそになったように、勢いよく飲み込んだ。次の瞬間、クノンはむせかえった。
フィアはクノンから小瓶を受け取ると、蓋を閉めながら、彼女は続けた。
「早くここから離れたほうがいいわ。死臭を嗅ぎつけて、次はどんな魔物が来るかわからない」
「……ありがとう。助けに来てくれて」
掠れた声でクノンが言った。彼女が何か言う前に、金の目を子供のように輝かせながら続けた。
「さっきは全然気づかなかったけど、フィアは《聖法使い》なんだね。驚いた」
それがどういう意味なのか、カシスにはわからなかった。フィアにはわかったのか。同じようにわからなかったのか。顔をあげ、じっとクノンをみつめている。
意外だったのか、クノンは首を傾げた。
「違うの? 《聖法》なんて初めてみるから、詳しくは知らないんだけど」
「いえ―― そうよ。わたしは、ええと、まぁ、そういうこと」
彼女は慌てて手を振った。カシスには言い繕っているようにみえた。
それを見ると、クノンは笑って続けた。声の調子は、だいぶよくなっていた。
「じゃあ、やっぱりエキドナを倒したのはフィアなんだね」
フィアから表情が消えた。カシスはクノンを見た。彼はきょとんとしている。
よくよく考えれば、その通りだ。今こそ彼女は目の前で、熱もない衝撃だけの閃光で沈黙鳥を倒してみせた。クノンが森の奥に見た光も、エキドナを地面ごと吹き飛ばした力も、全て彼女の――
フィアは突然立ち上がった。
「どうしたの?」
「用は済んだから。無事でよかった」
彼女は荷を担いだ。目に輝きがなかった。
「じゃあ。あなた達もはやくここを離れなさい」
「その、何か失礼だったかな。それなら謝るよ」
突然彼女の雰囲気が剣呑になったことを感じ取ったのだろう。クノンが慌ててそう言った。フィアは首を振った。
「違うわ。わかるでしょう? あまり私に関わらないほうがいい」
クノンを見据えて、フィアは続けた。
「沈黙鳥が何故集まってきたと思うの? エキドナの死臭を嗅ぎつけて来たのよ。死肉が好みだから。わたしが余計なことをしたから、あんた達は死にそうな目にあったの」
「それは、君とは関係ないよ、フィア」
クノンが眉をしかめると、フィアは疲れたように嘆息した。
「もし誰かが死んでいたら、あなた同じことが言える?」
「それは――」
結局クノンは途中で言葉に詰まってしまった。フィアは暗い瞳で続けた。
「悪かったわね。色々と。それじゃあ」
彼女は踵を返すと、足早に歩き出した。カシスは黙って見送っていた。豊かな緑の髪が、少女の細い背で揺れる。彼女はそのまま、森のなかに溶け込んで、消えてしまいそうだった。
何だろう。落ち着かない。
フィアが樹の陰に消える前に、耐え切れなくなってカシスは大声をあげた。
「待てよ!」
思ったより声は大きくなった。弾かれたようにフィアが振り返った。眉間にしわが寄っている。
「まだ何か用?」
そう問いかけられても、カシスも返す言葉がなかった。なにか、明確な意図があって呼び止めたわけではない。つい、声をあげてしまった。
時間稼ぎをするような心地で、カシスは立ち上がった。口の中が気持ち悪くてしゃべりづらい。その場に唾を吐き捨てる。
足元がおぼつかないので、木にもたれかかって言った。
「そんなに、肩肘張らなくたっていいだろ」
「は?」
怪訝そうに眉が歪む。たしかに、そうだろう。遠まわしに言っても仕方ない。カシスは頭を掻いた手を降ろし、まっすぐに彼女を見た。
「一緒に来い」
フィアの口が、呆れたように開いた。
「一緒に行こう」
繰り返す。クノンが意外そうにカシスの顔を窺っている。
「なんで?」
よほど驚いたのか。ややあって、彼女は訊いてきた。
「一緒に行かない理由もないだろ」
「たった今、死にかけたのに?」
「なんと言おうが、俺もクノンもあんたに助けられたんだ。礼ぐらいさせてもらいたいね」
落ち着かないというより、腑におちない。
どうして、助けた彼女がすまなさそうにしているんだろう? 彼女が逃げるように去る必要がどこにある? 彼女がエキドナを倒したことと沈黙鳥の群は関係あるかもしれない。だが、彼女がわざわざ引き返して駆けつけてくれたことは、それらとは何の関わりもない。クノンが言ったとおりだ。彼女が、助けてくれたのだ。
それが、どうして彼女を追い詰める?
なぜこの森に独りで来た?
「なんなの? 私が役に立ちそう、とか?」
「それでお前が満足ならそれでいい。行こう」
フィアは複雑な表情をした。どうすればいいのかわからないようだった。
彼女は苛立たしげにその緑の髪をかきあげながら言った。
「私のこと……変だとか怖いとか思わないの?」
「変だ」
「ちょっと――」
「怖くはない」
彼女はカシスと目をあわせた。水のように澄んだ、薄青の瞳。
あれほどの力を持っていて、いったい何に怯える?
何もかも、自分のせいのように振舞うのはなぜだ?
「……来ないのか?」
カシスはもう一度訊ねた。フィアはややあってから、伏せ目がちにこう言った。
「森の奥まで…いいかしら」
---------
つづく。
ヒロインがパーティに加わった!
カシスのツンデレレベルが1上がった!
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