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10/28投稿分の続き。

CHILDREN OF GROUND
第1章 沈黙の森
1:はじまりは森から



 投げ出した荷は見つからなかった。
 
 クノンが魔法で明かりを作り出し、周囲を照らし出してくれたおかげで、草むらに隠れた彼の剣を見つけることは出来た。クノンの杖先から放たれる炎の光を頼りに、カシスは剣で生い茂る草を切りながら荷物を探してみた。

「魔物が人の荷物を持ってくわけがないよな?」
「僕としては」

 カシスの背後で、クノンが言った。

「ここから落ちたんだと思うけど」
「ん?」

 カシスは振り返って、クノンが示す一角を見た。離れてみるとわかりにくいが、よく見ると、そこだけ急な坂になっている。ほぼ崖と言ってもいい。しかもかなり下まで続いている。ぎりぎり底が見えるが、その先も緩やかな斜面になっているようだ。

「見て。あそこに滑った後がある。やっぱり魔物といっしょに落ちたんじゃないかな?」

 クノンが指差す方向を睨む。斜面は地面がむき出しになっている。覗きこんだ先の土が一部めくれて、真新しい色に変わっている。崖下に向かって一条伸びている跡は、たしかにそれらしい。カシスは肩を落とした。

「面倒な……回収できるか?」
「夜はやめといた方がいいんじゃないかな? ここは足場がよくないから」

 クノンは崖から離れ、足元が見える程度に光を落とした。カシスはその場に座り込み、夜の森に向かって叫んだ。

「畜生!! まだ森に入って一日目だぞ!」
「まぁ、必需品の半分は僕が持っているわけだし」

 背中の荷物を背負いなおしながら、クノンは慰めるように言った。念のため、食料や水は二人で分けて運んでいた。

 カシスは、座ったまましばらく黙していたが、やがてポツリと呟いた。

「あのなかにコンパス入れっぱなしなんだが」
「ああ、買ったばかりの? 結構高かった、って言ってなかったっけ?」
「言うな」

 カシスは頭を抱えて立ち上がった。振り返って、多少開き直ってにクノンに向かっていった。

「ま、こんなこともあろうかと、古いのを捨てずにお前に託したわけだ」
「一応持ってるけど…アレが壊れたから買い替えたんじゃ?」
「言うな」

 クノンの頭を軽く小突く。クノンは顔を痛そうにしかめた。

「乱暴だなぁ」
「ったく。とりあえず寝る準備だ」

 カシスは踵を返して歩き出した。さすがに魔物の死骸の側で休む気にはなれない。

「カシス、寝袋は?」

 わかりきったことを聞く。横目でクノンをにらみながら、ポツリと呟く。

「なんだお前、一緒に寝てあっためてくれるのか?」

 途端、ざっ、靴底を滑らせながらクノンが身を退いた。

 クノンは青ざめた顔で、先ほどの戦闘があった場所を慌てて指差した。

「あの魔物の毛皮とか、暖かいと思うよ」
「皮を剥げってか!? …頼むから真に受けるな。冗談だから」

 なんだか変に疲れて、カシスはため息をついた。

     ***

 
 カシスとクノンが共に旅をするようになって、まだ数ヶ月である。二人とも、この森の秘宝を手に入れるために手を組んだといってもいい。
 
 二人ともにまだ10代だ。手を組むのならば、もっとベテランを選ぶのが筋だろう。それでも二人が協力しあうようになったのは――ベテランならば、《沈黙の森》に挑戦しようとは絶対に考えないからだ。世の中旅をして歩く者は多くても、わざわざ危険に飛び込もうとする人間は少ない。
 
 若いとはいえ、彼らの腕前は確かなものだ。クノンには、辺野の魔導師にはない知識と、豊富な術種を備えていた。カシスの剣術流派は魔物戦専門の名門であり、彼自身実践経験は豊富だ。さらにカシスはもともと山育ちであるうえ、山や森の歩き方を充分に心得ている。旅暮らしも長い。2人はバランスの取れたペアとなった。
 
 二人とも、《沈黙の森》攻略には自信があった。
 予期せぬ事態が訪れるまでは。
 
    ***
 
「なんだ、これは」
 
 朝、日が昇ってから、慎重に崖下へと降りてみた。崖下は、もともとは鬱蒼とシダが茂っていたようだった。『ようだった』というのも、辺りの草木が根こそぎ押しつぶされていたため、実際のところどう茂っていたのか見てもわからない状況だった。森の奥からこの崖下、さらに別の方角に向かってまた森の中へと、うねうねと曲がりくねった幅一メートルほどの道が出来上がっていた。

「真新しいね。引きずった跡……かな」

 クノンが呟いた。カシスも同感だった。

「にしても、大きいな。何の跡だ?」
「うーん……魔物?」

 クノンが首を傾げた。動くだけでこれほどの道を作る巨大な魔物――カシスは想像するだけでうんざりした。

「……ぞっとしねぇなぁ、おい」

 気を取り直して荷物を探すが、やはり見つからなかった。

 後頭部をかきながら、カシスは嘆息して言った。

「仕方ないな。こんなことで時間喰うわけにもいかねぇし。進むか」
「え? 引き返すべきじゃない?」

 少々不安げにクノンが声をあげた。カシスは肩をすくめた。

「ここは森だ。どうにでもなる」
「普通の森なら、ね」
「なんだ、ビビったのか?」

 カシスはクノンのほうを向き直ると、腰に手をやった。とはいっても、小柄な少年から怯えた様子は伺えない。クノンはあくまで冷静にかぶりを振った。

「道具が半分もない状態で進むのは、現実的じゃないと思うよ」
「いつもの倍の装備だったろ? ちょうど半分で、いつもどおりじゃねぇか」

 な? と笑ってカシスが言うと、クノンは一瞬呆れたような顔をした。多少ジョークのつもりだったが、クノンには通じなかったみたいだ。

 あまりクノンが乗り気でないのならば、カシスも引き返さざるをえない。まず単身でこの魔物の森に挑むのは無理だし、なにより魔道師であるクノンがいるからこそ勝算があるのだ。そのクノンが及び腰では、できることもできなくなる。得るものは何も無いが、仕方あるまい。無謀な賭けはしたくない。

 クノンは笑って頷いた。

「まぁ、ね。じゃあ、進めるだけ進んでみよう」

 なんだかんだいって、彼も諦めるつもりはないのだ。

 カシスは気合を込めて言った。

「よし。じゃあ、この跡を追いかけるか」
「へ?」

 クノンは荷物入れから、古いコンパスを取り出したところだった。針がカバーにひっかかり、うまく傾けないと使えない代物である。

 クノンはぽかんとした顔をしたまま聞き返してきた。

「この跡を辿るつもりかい? わざわざ? 危険な魔物に決まってるじゃないか」
「案外、その魔物が荷物持ってるかもしれないだろ?」

 クノンは呆れたようだった。

「別に、コンパス一個にそんなにこだわらなくても……」
「あの中には、俺の全財産が詰まってるんだ」
「そんなこと言われてもなぁ」
「魔物に遭うとは限らないさ。途中で落っこちてるかもしれないし」

 カシスは口の端を曲げて相棒に笑いかけた。クノンは、手の中のコンパスと、跡が向かっている方向とを見比べた。

 しばらくして、クノンはコンパスを懐にしまいながら言った。

「わかったよ。目指していた方角とも一緒のようだし。でも、方角が逸れたらそれっきりだよ?」
「決まりだな。行くか」

 カシスは辺りを見回した。後は木々の隙間を縫って、奥へ奥へと進んでいる。

 この先に、石の輝きがあるはずだが、目に映るのはただ薄闇だけだった。

------------------------------
つづく。

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