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なんか嫌な1週間になりそうでorz

11/28投稿分の続き。

CHILDREN OF GROUND
第2章  過去より、遣わされる者

1:再会

「フィア? 聞いてる?」
 
 はっとして顔をあげる。横柄にもテーブルに片肘をついたまま、薄汚れたテーブルの木目に魅入っていた。何度も呼びかけられていたらしい。向かいの席に腰掛けた少年が、心配そうな顔をしていた。

「何かあったの? 具合でも…」
「なんでもない。それで、なんだっけ?」

 気遣う少年をさえぎって、話を戻そうとする。これが、返って良くなかったようだ。彼の童顔がさらに困惑の色で曇る。
 
 少年の名前はクノン。柔らかそうな栗色の髪と、その顔つきのおかげで、人懐っこい印象がある。実際、穏やかな物腰で、そばにいると気持ちが落ち着く。

「聞けよ、人の話を…」

 横から不機嫌そうな声が割って入った。黒髪黒目。背が高く、がっしりした体つきをした青年で、カシスと名乗った。クノンと対照的で、物の言い方に棘がある。言うことはもっともだが、いちいち勘に触る。

 取り合うほどのことでもない。改めて訊きなおした。

「それで、何の話?」
「今日の予定の話だよ、フィア」

 クノンが、柔らかい口調で答えた。
 
 3人は安宿の食堂に居た。今しがた朝食を済ませたところだが、だいぶ日が高くなってきたせいか、人は少ない。取り付けられた大きめの窓からは、暖かな日差しが差し込んで、食堂は柔らかい光で包まれていた。

 《沈黙の森》での一件以来、3人は行動を共にするようになった。《森》から北に向って半日ほど歩いて、この宿場町に辿り着いた。フィアは《森》で別れたつもりだった。彼らには面倒をかけてしまったし、長く一緒にいることは憚られた。しかし、何故か2人は付いて来た。

(龍を探しているから、か)

 《沈黙の森》の奥深くで、ふたりは龍を見た。龍が実在すると知れば、興味をそそられるのも無理からぬことだ。
 
(……別に、面白くもない)
 
 彼らは、彼女が何故龍を探しているのか知らない。知る必要もないとフィアは思っている。どうせ、長くは一緒にいないだろう。いずれ向かう方向が異なれば、カシスもクノンも、彼女と別れて違う旅路につく。
 
 所詮その程度の付き合いだ。

「着いたばっかりだし、のんびりしてもいいんだけどさ。今日のうちに買い物済ませておこうと思って」
「何か要るものがあるの?」
 
 また話を聞きそびれそうになって、フィアは慌てて意識をクノンに向けた。

「食料とか水なら、出発前のほうがいいんじゃない?」

 保存食は必須だ。それに、ここら辺は川が少ない。

 そういえば風邪薬も残り少ない。忘れずに買い足しておこう。

「それはそうなんだけど、他にも入用なんだ。カシスの分の装備、買わないと」
「……ああ」
 
 カシスは《森》で、装備一式を失っていた。今の彼の持ち物は財布と一振りの剣だけだ。
 
「そうね、時間かかりそうだし、早めに揃えといたほうがいいわね」
「うん。お店がありそうなところは、さっき宿の人に聞いたからさ」
「来るときに通ったところ?」
 
 道端に品を並べた人と、その買い物客で賑わっている大通りがあった。
 
「ああ、露天商が集まってた通りのこと? あと、もうひとつ地元の商店街もあるらしいから」
「そう。できれば両方とも、見て回ったほうがいいかもね」
 
 歩き売りは、掘り出し物も多いが、粗悪品も紛れ込みやすい。商店街の規模がどれほどかは知らないが、ひとつ場所に腰を落ち着けている店のほうが、品物の質も安定しているだろう。

 クノンはにっこりして頷いた。
 
「そだね。場所はカシスに伝えたから。あと、買ってきて欲しい物も」
「あ、そう?」
 
 なにかしっくりこないものを感じたが、とりあえず頷く。クノンの笑顔の理由はよくわからなかった。
 
「じゃ、よろしくね」
「え? 何が?」
 
 目を見張って、クノンを見返す。クノンもきょとんとして小首をかしげていた。

 その様子を見て、自分が思い違いをしていることに気づいた。

「え? ……私が行くの?」
「フィア…… やっぱりさっきの話、聞いてなかったんだね……」
 
 クノンの肩ががっくりと下がった。

 てっきり、今日のカシスとクノンの予定の話だとフィアは思っていた。第一、買い物に付き合わねばならない理由が、フィアは分からなかった。

「だって……」

私は関係ないじゃない、といいかけてやめた。顰蹙を買いそうだ。

「クノンは行かないの?」
「僕は、他に用事があるから。ほら、《沈黙の石》を目利きしてもらってくるから」
「? じゃあ、2人で一緒に行けばいいんじゃない?」
「えーと、いや、だからさ」

 クノンが言葉に詰まった。

 さっき、そんなに私はぼんやりしていたのだろうか? 名指しでなにか説明があれば、さすがに気づいていると思うのだが。

「嫌なら別に来なくていいぞ」
「また、カシスはそういうことを……」
「俺は別に構わねぇよ。荷物が多いだけだしな。手伝ってもらうほどじゃない」

 それまで傍観してたカシスが、興味なさそうに言った。クノンが眉をひそめる。

(嫌……なのかな)

 言ってしまえば、その通りだ。

 だが、出かけたくない理由があるだろうか。天気は良いし、体調も問題ない。貧血気味ではあるが、いつものことだ。私物の買出しの用事もある。

 ただ、外に出ることに、なぜか抵抗感がある。

(人目につくことが怖い?)

 馬鹿馬鹿しい。 

「出かけたくないんだろ?」
「そんなことないわよ」

 反射的に切り返す。語気の強さに、少しカシスがたじろいだように見えた。

「じゃあ、なんだよ?」
「なんでもないわ」
 
 首を振る。思い込みも甚だしい。たかがの買出しで、何を怯えることがあるだろう。

 怯えながら生きるなら、私はあの頃と何も変わらない。
 
 深く息をつく。愛想笑いを浮かべる気にはならなかった。必要なことだけ述べる。
 
「いいわ……一緒に行く」

----------------
フィアに拒まれて、カシスはプチ傷ついてるみたいです笑
おでかけデートにつづく

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