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風邪は治ったw
11/23投稿分のつづき
なかなかキリのいいところで終わらない…!!
CHILDREN OF GROUND
第1章 沈黙の森
4:沈黙の石
:
舌打ちをして、カシスは立ち上がって剣を抜いた。役に立つかどうか知れないが、ないよりもましである。
龍は咆哮すると、前足を振り上げ、一気に三人を押しつぶそうとした。
一見砂でできているし脆そうだが、カシスが横に跳んで逃げた後は、完全に地面がめくれ上がって、深い穴ができた。
背中が焦げ付くような緊張が走る。カシスは龍から距離をとり、声を張り上げる。
「フィア!! おまえ、一体どういうつもりだ!?」
龍は標的を探して頭をめぐらせている。
カシスの声から一拍遅れて、何処からともなく気のない返事が返ってきた。
「がんばって。死なない程度に」
「ふざけんなぁぁぁぁっ!!」
思わず腹の底から怒鳴りあげると、それを聞きつけた龍と目があってしまった。
毒づいて、剣を上段に構える。
龍は翼を震わせると一跳躍で跳びかかって来た。カシスもまた跳び込んだ。身を縮めて、両の前足の隙間をすり抜け腹の下にもぐりこむと、体を捻り、抉るようにして龍の腹を斬り裂いた!
龍の、咆哮にも勝る悲鳴が洞窟に響く。
瞬間、上から砂が降り注いだ。
耐え切れずに転ぶ。口の中に、もろに砂が入った。吐き出しながら、はずみで取り落とした剣を拾う。
そのとき、クノンの詠唱が聞こえた。
『――生まれ出づ時、去り行く地、留まる所さえなくまた尋ねる者もなし。名も無き者よ、とこしなえの彷徨い人よ。ムァ・カルスの剣と化し、敵を討て!』
凛とした声が高らかに響くや否や、轟音と共に、目には見えない巨大な風の刃が龍の首を切り落とした。
崩れ落ちる龍の胴体――というか砂――に押しつぶされないうちに、カシスは跳んだ。
断末魔の叫びもなく、龍を造っていた砂は全て塵となって崩れた。
辺りに静けさが戻る。
「やった……のか?」
半信半疑でいるうちに、突風が吹いた。ぶわっ、と巻き上がった砂を全身に浴びながら、カシスは反射的に目を庇った。
「カシス、危ない!!」
クノンの声がした。突風がやんで、ただならぬ気配を感じて背後を振り返ると、あの龍が鎮座していた。
丸太のような尾が、横薙ぎに打ちつけられる。
「くっ――」
歯を食いしばって剣で受けた。あっさりと剣は弾かれ、それよりもさらにあっさりとカシスも弾き飛ばされ――
『ヨードレイ・インコータム――フェルベナス!!』
壁に叩きつけられたと思った。だが、思ったほどの痛みは無い。
むしろ、ひどく柔らかいものに受け止められていた。
見れば、ゲル状のなにかだった。よく確認する間もなくそれは消え失せ、地面に投げ出されたが。
「大丈夫? カシス」
すぐ側に、フィアが駆け寄ってきた。
「今の、お前か?」
「坤龍のドラグナを逆手にとった」
手短にそれだけ告げると、追い払うように、ひらひらと手を振った。
「もういいから下がって。見ていて危なっかしい」
「……礼はいわねぇぞ」
剣は、思ったよりも近くに転がっていた。拾い上げて、フィアを振り返る。
龍は、恐らくクノンが相手をしてるのだろう。砂の龍は、やはり見えない刃と闘っていた。
「お前、本当にどうするつもりだ? 首を落としても死なねぇじゃねぇか」
訊くと、フィアは龍を指差した。
「あれはただの影。ドラグナーの幻。だからあの龍は何回でも甦る」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」
クノンの魔法がもうひとつ完成した。白い光をとばすほどの熱波が砂ごと龍を焼いた。熱風がこちらまで届いてカシスの頬をなでた。焦げ付いた土に、砂の流れがわずかながら鈍る。
「よく見て」
フィアは龍を示していた指を、《沈黙の石》に移した。目をこらすと、沈黙の石から赤い光がにじみ出している。陽炎のように揺らめき、ゆらゆらと大気に溶け込んでいく。
「あの影は結晶の力を使ってる。倒せば倒すだけ、結晶の量が減る」
「それで?」
「砕く。もう二度と、元に戻れないぐらい」
フィアは結晶を――結晶の中にあるものを見て、小さくこぼした。
「……嫌じゃん。もう死んじゃったのに、力だけ一人歩きしてるなんて」
クノンが灼いた土はもうほとんど元に戻っていた。
砂が、一斉に噴水のように舞い上がる。
「フィア!!」
カシスは、フィアが飛び出していくのを止められなかった。
彼女は、形を作り始めた龍の正面に躍り出ると、左腕を突き出した。
『ヘラクイトス!!』
彼女の腕の先から現れた雷球が、まっすぐに龍の眉間に突き刺さり、そして頭部を爆砕した。
出来上がりかけた龍の形が崩れる。しかし、湧き上がる砂の流れはまだ止まらない。
フィアは唱え続けた。短い詠唱で、クノンをはるかに上回る大魔法が繰り広げられた。
目に見えない圧力が、龍を押しつぶした。
水の刃が、龍を斬り裂いた。
火が。
風が。
――力が。
圧倒的な光景に、戦慄が走る。
いつしか、クノンの詠唱も止まり、カシスも剣を構えるのも忘れて、その光景に見入っていた。
一際強く砂が舞い上がった。フィアの詠唱の早さにあわせるように、一瞬のうちに龍が形を成す。その音だけで空洞が割れるような長い咆哮があがる。
龍がその巨体に似合わぬ速さで跳躍した。
フィアは、避けなかった。
『オプティルカ・スパズ――ファランゾルン!!』
熱も衝撃もない。目を灼かんばかりの輝きが拡がった。白い閃光が、龍を飲み込んだ。
その瞬間、《沈黙の石》が砕け散った。
断末魔の叫びとともに、龍を象る砂が弾けた。
だが、砕けたのは《石》だけではなかった。《沈黙の石》は、この空洞を支えていたのだ。そうでなくても、これほどの激戦の後だ。天井に、あっという間に亀裂が走る。
フィアは、最後に呪文を唱えたままの姿で固まっていたが、やがてそのまま横倒しに倒れた。
「おい!!」
剣を収め、フィアに駆け寄る。ひび割れた天井から落ちた砂や石が、肩や頭を打つ。
彼女の肩をつかんで抱き起こすと、完全に気を失っているようだった。舌打ちして、そのまま担ぎ上げる。クノンが文字通り飛んでやって来た。だいぶ消耗したのか、肩で息をしている。
「フィアは!?」
「つーか、早くここから出ないと」
頭上を見上げて、カシスは顔が引きつった。
間に合わなかった。天井が轟音とともに崩落し始めた。
「わわわわっ」
カシスがフィアを担ぎ上げ、どちらともなく駆け出した。
右に、左に。落下してくる砂だの岩だのをぎりぎりで避けながら、全速力で出口へと向かう。もうもうと埃が立ちこめ、視界が利かなくなる。
あと数歩――というところで、目の前に一際大きい岩石が立ちはだかった。足が止まる。
(終わった――)
天井が落ちてくる。咄嗟にカシスはフィアを腕の中に庇い、目を閉じた。岩盤と岩盤に圧殺される瞬間を待つ。
「……?」
数秒が経った。何も起こらなかった。天井が崩れる轟音も静まっている。
カシスは目を開いた。目を閉じる前の光景と、何も変わっていなかった。巻き上がる砂塵も、落ちてきた岩も、何一つとして、物が動いていなかった。
背後に何かいる気がして、フィアを抱えたまま、カシスはゆっくりと振り返った。
そこには、結晶の中にいたはずの、あの黒い鱗を持つ龍がいた。赤い瞳に穏やかな輝きを灯し、巨大な翼を折りたたんで鎮座していた。
(北へ……)
耳元で囁くような声を聞いた。
そして、黒い砂が、視界の全てを攫った。
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どさくさに紛れたハグってもえr…げふんげふん
エピローグにつづく!