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ひさしぶりに風邪引いたぜ!
もうなんかアゲアゲなんだぜ!

11/21投稿分のつづき

CHILDREN OF GROUND
第1章 沈黙の森
4:沈黙の石




「龍!? これが!?」
 いささか興奮気味にクノンが言った。

 龍。伝説の生物だ。エキドナもまた伝説の魔物だが、話の質が違う。

 ドラゴンの実態が確認されたことはない。地方の伝説や御伽噺に姿を見せるだけだ。だいたいは魔物ではなく、神格化されている。いるかもしれないが、どちらかといえばいない。ある種の物好きな人間は――特に魔道師達は――その存在を信じているようだが。

 フィアは頷いた。クノンは陶酔しきった眼差しで龍と思しきものに見入っていた。

 カシスとしては、薄気味悪くてあまり近づく気はしなかった。龍でしろそうでないにしろ、とにかく危険な生き物であるのは間違いない。遠巻き、傍らにいる少女に話しかける。

「死んでんのか? これ」
「そうよ。千年は経ってないと思うけど」
「……そもそもお前、何でこれが龍だってわかるんだ?」

 誰も見たことがない。それが龍だ。

 カシスはフィアを見た。彼女の緑色の髪を。今は、その色彩がやけに際立ってみえる。あの結晶の、赤い光のせいだろうか。

 フィアは、結晶の方を見たまま、淡々と答えた。

「私はね、ずっと龍を探してきたの」
「物好きだな」
「そうね」

 あっさりとフィアが頷いた。クノンは相変わらず結晶の検分をしている。

「知っていたんだな? 《沈黙の石》の正体が、龍の死体だって」

 横目で彼女を見やると、フィアはほんの少しだけ、目をそらした。

「まぁ……別にいいけどな」

 言われたところで、きっと信じはしなかった。フィアも、そう思っていたのだろう。

「で、念願叶って龍とやらを見つけたわけか。良かったじゃねぇか」
「……生きている龍を見つけたかった」
「ん?」

 フィアが疲れた様子で首を振った。

「生きてる龍を見つけたかったの。こんな姿でも、力さえ残ってれば応えてくれるはずだと思ってた。でも、もう完全に死んでしまってる」
「何? お前、龍と話ができんの?」

 何気なく横槍を入れると、フィアは鼻で笑った。寂しい笑い方だった。

「……そうね。龍が私の問いかけに応えるかなんて、わからないよね。それでも……他に考えもなくて」

 いつか見せた暗い目だった。一体何を見てきたのか ――訊くのは憚られた。
 
 カシスは、未だ結晶に食い入っているクノンに声を張り上げた。

「おい、クノン! いつまで遊んでんだ!!」
「べ、べつに遊んでるわけじゃないよ」

 クノンはやっと結晶から離れると、不満げに、二人のそばに戻ってきた。

「お前、変だぞ」
「変なのはカシスのほうだよ」
 
 駆け寄ってきたクノンは、興奮冷めやらぬ様子で続けた。

「どうしてそんなに平静でいられるのさ? だって龍だよ? 伝説の龍だよ? 誰もはっきりとその目で見たことないんだよ? ドラゴンの琥珀なんて世紀の大発見じゃないか」
「別にどうでもいいし」
「公表はさせないわよ」

 カシスの声が重なったため、フィアが言ったことを理解するのが一瞬遅れた。

「……へ?」

 彼女は言い直さなかった。全く違うことを続けた。

「龍はね、力が形になっただけ」

 フィアが結晶を見上げる。薄青の瞳に、赤い光が差し込む。
 
「その器には限界がある。死期が迫ると、龍はその力で新しい器を作るの。そして、次の器にすべてを受け継がせて、消えていくの」
 「器?」
「自分の分身をつくるってこと」
  
 そう言って、フィアが笑った。彼女も、なんと言っていいのかわからないのかもしれない。
 
「それが、龍の不死。この龍は、何かの折にその流れを邪魔されたんだと思う。次の器を作らないまま死んでしまったのよ。行き場をなくした力は、そのまま固化して結晶に」
「どこで知ったんだい? そんなこと」

 クノンが興味深そうに訊いた。フィアは答えなかった。

「固化したドラグナは、この森に影響を与えている。昼になっても暗いし、魔物の巣窟になっている」

 そう言って、彼女はマントの下から右腕を跳ね上げた。あの白刃の剣が握られていた。
 
 ぎょっとして、クノンが目を見張った。

「どうしたの、フィア?」
「弔い」

 答えるや否や、フィアの声が鋭く虚空を打つ。

「坤龍よ! 竜の眷属の二位に座す者よ! 器を失くし、心さえも失くしたかっ! 応えろ――」

 そのとき、カシスはみたような気がした。
 
 彼女の体から膨れ上がって、はじけとぶ陽炎を。

『――シルギルトア!!』

 彼女が口をつむぐと、わずかな余韻を残してあたりは静まり返った。

 次の瞬間、《沈黙の石》が目を灼かんばかりの光を放った。

 カシスはいきなり膝から力が抜けて、その場に膝をついた。いや、力が抜けたのではない。地面が激しく揺れていた。

「な、なんだ!?」

 立って居られなかった。荒波に揉まれる船にでも乗っているつもりで、上下左右に跳ね回る地面になんとかしがみつく。

「言霊っていうのがあってね」
「なんだよ、いきなり!」

 隣で似たように地面にしがみついているクノンが突拍子も無く薀蓄を始めた。

「ファカルティと強く反応する言葉のことなんだけど。魔法に使う呪文とか」

 揺れは収まりそうになかった。少しずつ天井が崩れ、もうもうと粉塵がたち込め始めた。

 魔石は明滅を繰り返しながら、ますますその光を強め、赤い光の帯が洞窟中を飛び回っていた。

 フィアは、こんな状況でもまだ立っているようだ。砂埃の向こうに、緑色がちらちら覗いている。いつまでもへばっているわけにはいかない。とりあえず、彼女のもとへいこうと、カシスは匍匐前進を始めた。

「なかでも、名前というのは特に強い言霊なんだ。精霊にだって名前はある。まぁひょっとしたら龍にだってあるかもね。こういうファカルティの濃い場所で、もし莫大な力を持つ龍の名を言霊として唱えれば当然――」

 クノンの話を半分聞き流しながら、カシスは手を伸ばした。その指先にある地面が、突然盛り上がった。

 ただの隆起ではない。湧き水のように、サラサラとした砂がそこから溢れかえった。みていると、次々と砂が拭き出始めた。砂はこぼれることなく、何かの形を描くようにして、天井まで昇っていく。

「ま、こういうことになるんじゃないかな」

 唐突に。

 光が失せ、地震が止んだ。
 
 サラサラと、宙を舞う砂がこすれあう涼やかな音が響く。
 
 砂の中で、何かがゆっくりと頭をもたげた。
 
 咆哮とともに。
 
 翼が広がり砂が弾け飛ぶ。

「現れたわね、亡霊」

 魔石の光を受け、きらめきながら降り注ぐ砂の中で、少女は呟いた。

 低い唸り声を上げ、流れる砂でできた巨大な龍は獰猛に牙をむいた。
----------------------
魔法の設定いい加減だなって自分でも思う。
意外とつづきます☆

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