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春からネットに接続できないので、しばらく更新停滞すると思います。
それまで4章終わらせるぞー!
CHIDRENOFGROUND
第4章: 千年の森
「どうしてここに?」
第4章: 千年の森
「どうしてここに?」
嵐龍が去ったあと、フィアは残された沃龍に尋ねた。
ここは、レイーグの森だ。少なくとも千年前、沃龍はここにはいなかったはずだ。
「私を、助けてくれたの?」
『そなたは牙だ。いま失うわけにはいかない』
牙。いやに耳につく言葉だ。
左腕に痣を持つ者、ピラウスあるいはパラウスを表す言葉のはずだ。それが、何か重要な意味を持つのだろうか。失うわけにはいかない、というのも、何か利用されているようで、空恐ろしい。
「私は、千年前、龍族に何があったか知りたいの。知ってるんでしょう?」
沃龍はセシルのことも知っているようだった。何かわかるかもしれない。
『記憶を取り戻しなさい』
「え?」
『そなたの光が、いずれ牙の記憶を呼び覚ますでしょう』
「思い出せってこと? それより、あなたが話してくれれば済むことじゃない」
『言葉にすれば、奪われる』
沃龍は頭を巡らせた。木々の合間から見える、高い空を見ているように見えた。
『言葉で語れば、そなたの知りたい真実も、失った記憶と同じく、奪われる』
「誰に?」
フィアの問いかけに対し、龍は微動だにしなかった。
不自然な間が空いた。しばらくして、まるで何もなかったかのように、青い龍は続けた。
『そなたの光は、脆い。かつて見た鋭さはない』
どういう意味なのか。セシルに比べて力が劣るということだろうか。
独り言のように、龍はフィアを見ることもなく、囁き続けた。
『だがその力は、紛れもない浩龍の力。失うわけにはいかない…… 問わねばならない』
金色の大きな瞳が、湖面の光を受けて柔らかな輝きを帯びた。
『輝ける者、なぜ、坤龍を滅ぼした?』
やっと、沃龍はフィアを見た。
嵐龍も同じことを言っていた。
《沈黙の森》で、琥珀になっていた、黒い龍の姿が思い浮かぶ。
「滅ぼしたって…… 坤龍はそもそも死んでいた」
『小さき者よ、死とはなんぞや』
沃龍が繰り返した。龍がこちらをみていないことより、龍の大きな眼に見据えられるほうが落ち着かなかった。
慎重に考えて、それらしい答えを探す。
「……器を失くしていた」
『死とはなんぞや』
嵐龍の囁きが、いよいよ鋭さを帯びる。
「結晶化してた。動かなかった」
『死とはなんぞや』
ありのまま、思ったままを口にする。だが、沃龍の意図に沿わないらしい。
死。
あれが死でないとしたら、何が死だろう。
死に定義なんてあるものか。理不尽な龍の威圧もそうだが、なにより問いかけの意味がわからず、フィアは苛立ちを覚えた。
「残った力だけが暴走してた! 何が言いたいのよ――」
『それだけが死ではない』
フィアは、息を詰めた。怒鳴ろうと肺いっぱいに溜めていた何かが、急に萎んで消えてしまった。
『人間ならば、息が止まり、血が固まれば、それが死なのでしょう。だが龍を生かすものは、大気でも血でもない』
不快な苛立ちが嘘のように消えた。
染み渡る冷え切った感覚は、間違いなく沃龍の感情だ。
『龍の源は、人が心とか、魂とか呼ぶもの。目には見えないすべてのものが、龍を生かす力となる』
「魂が、龍力?」
聞きそびれそうになった話に、なんとか喰いつく。
沃龍が翼を揺らした。龍は、噛んで含めるようにゆっくりと囁いた。
『龍を龍たらしめるものが、魂であり、我らが≪盟約≫と名付けたもの。そなたにも、≪盟約≫が血となってその身の内に流れているはず。仮初としても、龍族なのだから』
穏やかな風が吹き抜ける。湖面が揺れ、乾き始めたフィアの髪をかき混ぜる。
『≪盟約≫は古くから続く強固な絆。それでも、そなたの光ならば簡単に砕くことができる。弱く小さくとも、真の光ならば』
「砕く……?」
心臓を鷲掴みされたような気がして、身がすくむ。
知っていたような気がする。
光は、隠されているもの何もかもを照らしだす。闇の中でも。心の中でも。見えはしないはずのことまで、全て見つけ出して、影響を及ぼすことができるのが浩龍の力だ。
闇は隠して何もなかったことにするのに対して、光は見つけ出して破壊する。怪我ならば、傷を負ったという事実を。命ならば、存在そのものを。
それがどういうことか、知っているつもりだった。
『坤龍は二度死んだ…… わかりますか、小さき人の娘よ』
「私が…… 坤龍の≪盟約≫を破壊したから?」
『そう』
龍は頷いた。
『そなたの言うとおり、シルギルトアの器は死に、残された力は≪盟約≫のままにその地に留まった。やがては森の一部になったでしょう。にもかかわらず、そなたは坤龍を深い眠りから呼び起こし、破壊した』
自分がしたことのはずなのに、初めて耳にする話のように感じるのはなぜだろう。
『何のために? そなたの意図は、理解しかねる』
「私は……」
『戯れに滅ぼしたか』
「違う!」
叫んでいた。
「それは…… でも、死んでいるんじゃないの?」
フィアは反射的に言い返した。握った拳を胸の上に当てる。震える鼓動を抑えるように。
「死んでいなかったかもしれないけど、生きてもいなかった。そうでしょう? そんな状態を、本当に坤龍は望んでいたの?」
『だから、完全な死を与えたと?』
「そ……」
そんなことはない、と言おうとして、舌がもつれた。
何も言い返せない。
(私がしたことは、なんだったの?)
死んで、力だけが残ったって、悲しいだけだと思った。命が尽きたのなら、せめて安らかに眠って欲しい。穏やかな眠りを。それが当然だと思った。
そう思って、私は何をしたのだろう?
「私は……」
自分の身体を見下ろす。手を広げてみた。
左腕には、竜のアザが巻き付いている。
この力が何か、わかっているつもりでいた。
吐き気がする。フィアは両手で顔を覆った。
『フィア。我らはそなたを責めているわけではない』
はじめて名前を呼ばれて、思わず顔をあげる。
龍の瞳が、フィアを見据えていた。
『そなたが死をどう捉えようと、それは本質ではない』
そうだろう。たぶん、問題なのは、私が何を考えたかじゃない。
『知らずにその光を使うことが、なによりも危険なのですよ。そなたは、何のつもりもなく、すべてを滅ぼしかねない』
「そんなことしない!」
聴きたくなくて、裏返った声で叫んだ。悲鳴だった。
どうしていいかわからない。
(私は自分の考えひとつで、大事なモノを簡単に壊せるんだ)
そんなことは、わかっているはずだった。
わかっているつもりで、何もわかっていなかった。
『まずは見定めよ。そなたの光は、望めばすべてを壊すことができる』
悔恨、自責 ―― とてもそんな言葉では言い表せない、苦い感情が広がる。
こんな力は望んでいなかった。
こんな苦しい気持ち、欲しくなかった。
そればかりで、私は肝心な事から逃げていた。
フィアは歯噛みした。
沃龍が口を閉ざすと、森の中はとても静かだった。
時折風が吹き抜け、獣の鳴く声が響く。
そんなとき、声がした。
「セシル?」
振り返ると、離れた樹の影に、金色の獣がいた。大きな猫のようだ、と思った。
赤い瞳に見覚えがある気がしたが、そんなことがあるはずがない。
金色の獣が駆け寄ってくる。
獣が姿を変えた。一瞬で、手品のように獣から健康そうな青年へと姿を変える。
「セシル!」
細い金の髪。紅い瞳。頬の入れ墨。嬉しそうに、駆け寄ってくるレイーグは、記憶よりもだいぶ成長していたが、目元だけは変わらず子供のままだ。
そんなことが、あるはずないのに。
千年前の人が生きているなんて、あるはずないのに。
『―― だが、同時にその力でしか救えないものもある』
耳の奥で龍が囁く。
視界が回る。足場が無くなるような、不思議な浮遊感があった。
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以上、フェルベナスさんの講義でした。
つづく。
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