忍者ブログ
↓「はじめに」をごらんください (*´∀`*) ↓    
[105]  [104]  [103]  [102]  [101]  [100]  [99]  [96]  [95]  [94]  [93
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

おひさしぶりです! 風霜です!
やっとネットが繋がったので、ぼちぼち更新再開します!

 


CHIlLDRENOFGROUND
第4章: 千年の森



 
 
『ラーガ』

 頭のなかに直接響く声に覚えがあった。

 ラーガは足をとめ、人の姿に戻る。

 目の前に重い地響きを立てながら、巨大な影が舞い降りた。

「…… イド」

 きっ、と目の前に現れた嵐龍を睨みつける。

「なんだよ、おれ急いでるんだ!」

『お前に言わねばならんことがある』

「おれは聴きたくない!」

 無視して行こうと思ったが、立ちふさがる龍を越えていくのは難しい。
 
 もともと嵐龍の行動には不満を持っていたのだ。我慢できずに、ラーガは叫んだ。

「なんでセシルを ―― フィアを傷つけた!」

『セシルではないからだ』

 淡々と嵐龍が答えた。翼を揺らして、さも当然そうに続けた。

『二度目に此処を訪れたときのことを、あの娘は覚えていない』

 確かに、その通りだ。

 セシルは、二度、この森を訪れた。

 しかし、フィアは一度目のことしか覚えていなかった。

 だが、そんなことは、人を傷つけていい理由にはならない。ラーガは牙を剥いた。

「だったらなんだ。覚えてなくてもいいじゃないか。あんな…… 辛いこと……」

『いずれ思い出す』

 嵐龍の紅い目が瞬いた。
 
『あのとき、セシルは光を未来に託した。あの娘は光を託された。ならば、すべてを知らねばならない』

「なんでだよ ……」

 嵐龍の言う“あのとき”が思い出される。

 覚えている。セシルは目の前で消えた。たぶん、失意のうちに。

 あのとき、彼女の手に触れようとしたのに、ほんのすこし、わずかに指先が届かなかった。

 思い出すと、辛い胸の疼きが 戻ってくる。

『立ち向かうか、死か。それ以外に、あの娘に選択はない』

「勝手だろ、そんなの!」

 ラーガは吼えた。

「フィアはいい子だ! どうしてそんな辛い目に合わなくちゃいけないんだよ? セシルだって―― セシルだって、命を投げ出すことなんてなかったんだ!」

 この目に焼きついて離れない、あの青い瞳。

 光のなかに溶けていく、あの長い緑の髪。

『だからこそ、お前に頼みがある』

 嵐龍は急に話を変えた。

『あの娘を護ってやれ』
 
 声の調子も、幾分柔らかかった。
 
 そんなことは初めてで、ラーガは戸惑った。胸がざわついた。

「イドは?」

『もう時間がない』

 目線を合わせるように、嵐龍が顔を地面に近づけた。龍の熱い息がかかる。

 そのしぐさは、深くお辞儀をしている様子に似ていた。

『だから頼んでいる』

 嵐龍が何を言っているのか、ふいに理解した。胸のざわめきが刺すような痛みに変わる。

「馬鹿!」

 気付けば、声を荒げていた。腕を振り回して、一息にまくしたてる。

「イドの馬鹿! この大馬鹿野郎! いつも―― いつもそんな勝手ばかり言ってさぁ! 護りたいなら、自分で護ればいいのに!」

 いいながら、涙がこぼれて止まらない。

 やっとわかった。

 ダメなんだ。

 自分で護りたくても、もうこの龍の命は尽きようとしている。

 龍だから、死ぬことはない。でも、それはもうイドではない。嵐龍だけど、セシルと共に生きた、嫌味いっぱいの龍ではない。

 だから、イドは、イドなりのやり方でフィアを救おうとした。すごく乱暴だし、許されないやり方だったけど、それしかなかったんだ、イドには。

「イドが馬鹿でどうしようもないから、俺が代わりにフィアに付いていってやるよ!」

 手の甲で涙を拭う。

 もう最後かもしれない、嵐龍の姿をしっかりこの目に収めるために。

「セシルの分まで、フィアのこと護ってみせるよ! だから」

 きっとそうだ。同じことを嵐龍も考えている。この不器用な風は、素直な気持ちなんて口に出せないから、おれが代わりに言ってやらなくては。

「だから、ちゃんとみてろ! 最後までちゃんと見届けろよ!」

 嵐龍の口が歪んだ。笑ったように見えた。

 満足げに翼を広げ、嵐龍は飛び立った。

 それを見上げて。見届けて。しっかりと目に焼き付けた。

 立ち尽くしていると、誰かが木陰から姿を現した。

 まさか聴かれているとは思いもしなかった。フィアかと思って慌てて顔を向ける。しかし、そこにいたのは、思っていた少女ではなかった。

 栗色の髪。金の瞳。紫の服。
 
 フィアと一緒にこの森に来た人間の少年だ。悪い奴じゃない。この少年からは、すごくたくさんの人に大切にされている匂いがする。

「君は……?」

 眼を見開いた少年が呟く。

 ラーガは笑いかけた。

「フィアには、内緒だよ」
 



------------------------------------------------ 
イドとセシルとラーガの話はどっかでちゃんと回収します。回収できるはず。
つづく。 

拍手

PR
この記事にコメントする
名前
タイトル
文字色
E-mail
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
最新CM
[08/29 睦月レイ]
[12/24 風霜]
[12/22 中田]
ブログ内検索
カレンダー
06 2025/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
忍者ブログ [PR]