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いつもより文章量が多いので注意ですー
CHILDRENOFGROUND
第4章: 千年の森
:
ふと、ずっと昔の、魔物に受けた傷の話でもしているのだろうかという考えがよぎって、返答も間の抜けたものになってしまった。
「さっき、イドに吹き飛ばされて、ひどかったんだよ」
ということは、身体がはじけ飛んだような感覚は、あながち勘違いではなかったのかもしれない。
一体どんな様子だったのか、想像してぞっとする。
「もうイドなんか嫌いだ。あいつイイ奴だと思ってたのに…… 」
レイーグの青年は不機嫌そうにそう言うと、青い龍を見上げた。
「フェルベナスが助けてくれたんだよ」
沃龍は何も言わず、尾を揺らして水面を撫ぜた。
「……ありがとう」
改めてフィアは言った。
考えはまだまとまらないままだし、何か新しい情報を得たわけではないが、この龍と話ができてよかった。
沃龍は翼を広げると、大きくはばたかせて宙に浮かんだ。そのはずみで、水しぶきが跳ねる。
『北へ向かいなさい』
それだけ告げると、唐突に沃龍は宙に溶けて消えた。
「あれ? 行っちゃった」
隣で、青年がきょとんとした顔で宙を見上げている。
いままで龍がここに居たことを示すのは、揺れる湖面だけだった。
その顔を見つめて、フィアは恐る恐る切り出した。
「ねぇ、あなたは…… ラーガなの?」
不思議そうな表情をしていたが、彼はすぐ得意そうににやりと笑った。
「おれ、大きくなっただろ?」
見違えたと思ったのだろう。ラーガは腰に手を当てて、得意げに胸を張った。
ラーガの顔を見上げる。十分に上背のあるほうだ。
まっすぐな眼差しにのぞきこまれて、フィアは思わず顔をそらした。
「? どうかした?」
どう問えばいいのか。フィアは頭を抱えた。
考えたところで、結局は、率直に訊くしかない。
「どうしてあなたが、今、生きてるの? 千年も経ったのよ。ありえないわ……」
レイーグ族の寿命がどれくらいかは知らない。だが、千年も姿を変えず生き続けるなんて、聞いたことがない。
「ね、セシルが最後にここに来たときのこと、覚えてる?」
優しい口調で、ラーガが問いかけてきた。フィアは頷いた。
「魔物から受けた傷を治すために、聖樹の泉を求めてきたんでしょう? そのとき、ここであなたと出会った」
ラーガは首の後ろを掻いた。
言い方に迷っていたのか、しばらくしてから彼は口を開いた。
「おれね、もう一回セシルに会いたかったんだ。そう思ったら、いつの間にか時間が経ってた」
ラーガは湖の上にそびえる巨大な樹に視線を向けた。
「きっと、イクス・マナンが願いを叶えてくれたんだ」
つられて、フィアも大樹に目を向ける。
差し込む陽光が、湖面を輝かせ、反射した光を受けた聖樹は、まるで青い光をはなっているようだった。
(そんなことがあり得るの?)
千年も老いることもなく命を生かすなんてことでも、強い力を持つこの泉なら可能なのだろうか?
「セシル」
呼びかけられて、振り返ると、思ったより近くにラーガが居た。
気付けば、抱きとめられていた。暖かい。触れた身体を通して、鼓動が聞こえる。
「会いたかった……」
胸の奥が針で刺したように痛む。ずっと、ひとりで此処で待っていたのだ。
セシルの他愛のない約束を信じて。
(私、でも、何も応えられない)
私はセシルじゃない。ラーガが会いたかった人とは違う。
ラーガの肩を掴んで身体を引き離した。
「セシル?」
ラーガが戸惑った顔をした。フィアは首を振った。
「待って。いくつか言わなくちゃいけないことがある」
ラーガがセシルを待ち焦がれていたのなら、なおのこと言わなければならない。
「ごめんなさい。私はセシルじゃない。セシルとよく似てるかもしれないけど、違うの」
似ていても、同じ記憶を持っていても、私はセシルじゃない。
フィアは目を伏せた。ラーガは赦さないだろう。待っていたのに、現れたのは全く別人だ。それに代償に捧げるには、長過ぎる時間が経っている。
「あなたが待っていた人じゃないのよ、私は…… でも本当なら、こんなはずじゃなくて、ここに居るのはセシルだったはずで」
ふいに、頭に柔らかい重みがかかる。
ラーガの大きな手だった。顔を上げると、彼は微笑んでいた。
「優しいんだね」
そう言って、ラーガはフィアの頭を撫でた。暖かくて、優しい手つきが心地いい。
そんな風に言われるとは、思ってもみなかった。
彼女の予想に反してラーガ本人が気にした素振りを見せなかったので、フィアはもう何も言えなくなってしまった。
「フェルベナスもそう言ってた。セシルが少し姿を変えて戻ってくるって」
思わず口にすると、ラーガが小首を傾げた。
「おれ、わかるよ。キミの中にセシルが生きてる」
どういうことだろう。否定も肯定もできず、フィアは黙っていた。
「それでいいんだ。おれは、キミに会えてうれしいよ」
本心なのか。わからないが、ラーガの笑顔を見ていると、心が和むのがわかった。
ラーガが何でもないことのように続ける。
「ねぇ、セシルじゃないなら、なんて呼べばいい?」
ラーガが微笑んだ。
「フィアは、イクス・マナンみたいだ」
どう捉えればいいのかわからないことを言われて、思わず間抜けな声をあげてしまう。
「フィアは? おれに会って、嫌?」
疼いていた胸の奥の痛みがほんの少し、和らいでいた。
「うれしいよ。ありがとう、ラーガ」
ラーガが笑った。にっ、と歯を見せた、あどけない、満面の笑みで。
ふと、何かに気付いたように、ラーガが森に視線を向けた。
「どうしたの?」
つられてみやるが、特に変わった様子もない。ラーガが不思議そうに首を傾げた。
「いや、そういえばあいつら、付いてきてないなぁって」
言っているうちに、ラーガは金色の大きな猫に姿を変え、そのまま走り出した。
「ま、待って!」
フィアも一緒に走り出した。
------------------------------------------------
ラーガ大好きですとも!
優しくて可愛くてもふもふな猫が大好きですとも!
第4章: 千年の森
:
「セシル、よかった怪我も治ったんだね」
「怪我?」
ふと、ずっと昔の、魔物に受けた傷の話でもしているのだろうかという考えがよぎって、返答も間の抜けたものになってしまった。
「さっき、イドに吹き飛ばされて、ひどかったんだよ」
「え……」
ということは、身体がはじけ飛んだような感覚は、あながち勘違いではなかったのかもしれない。
一体どんな様子だったのか、想像してぞっとする。
「もうイドなんか嫌いだ。あいつイイ奴だと思ってたのに…… 」
レイーグの青年は不機嫌そうにそう言うと、青い龍を見上げた。
「フェルベナスが助けてくれたんだよ」
沃龍は何も言わず、尾を揺らして水面を撫ぜた。
「……ありがとう」
改めてフィアは言った。
考えはまだまとまらないままだし、何か新しい情報を得たわけではないが、この龍と話ができてよかった。
沃龍は翼を広げると、大きくはばたかせて宙に浮かんだ。そのはずみで、水しぶきが跳ねる。
『北へ向かいなさい』
それだけ告げると、唐突に沃龍は宙に溶けて消えた。
「あれ? 行っちゃった」
隣で、青年がきょとんとした顔で宙を見上げている。
いままで龍がここに居たことを示すのは、揺れる湖面だけだった。
その顔を見つめて、フィアは恐る恐る切り出した。
「ねぇ、あなたは…… ラーガなの?」
「そうだよ?」
不思議そうな表情をしていたが、彼はすぐ得意そうににやりと笑った。
「おれ、大きくなっただろ?」
見違えたと思ったのだろう。ラーガは腰に手を当てて、得意げに胸を張った。
ラーガの顔を見上げる。十分に上背のあるほうだ。
まっすぐな眼差しにのぞきこまれて、フィアは思わず顔をそらした。
「? どうかした?」
どう問えばいいのか。フィアは頭を抱えた。
考えたところで、結局は、率直に訊くしかない。
「どうしてあなたが、今、生きてるの? 千年も経ったのよ。ありえないわ……」
レイーグ族の寿命がどれくらいかは知らない。だが、千年も姿を変えず生き続けるなんて、聞いたことがない。
ふと、イルミナのことが思い出される。彼女も、千年姿を変えず、この世に留まった。
ラーガも同じだというのだろうか。
ラーガも同じだというのだろうか。
「ね、セシルが最後にここに来たときのこと、覚えてる?」
優しい口調で、ラーガが問いかけてきた。フィアは頷いた。
「魔物から受けた傷を治すために、聖樹の泉を求めてきたんでしょう? そのとき、ここであなたと出会った」
「そうだね」
ラーガは首の後ろを掻いた。
言い方に迷っていたのか、しばらくしてから彼は口を開いた。
「おれね、もう一回セシルに会いたかったんだ。そう思ったら、いつの間にか時間が経ってた」
「いつのまにか?」
「眠っていたんだと思う。この泉で」
ラーガは湖の上にそびえる巨大な樹に視線を向けた。
「きっと、イクス・マナンが願いを叶えてくれたんだ」
つられて、フィアも大樹に目を向ける。
差し込む陽光が、湖面を輝かせ、反射した光を受けた聖樹は、まるで青い光をはなっているようだった。
(そんなことがあり得るの?)
千年も老いることもなく命を生かすなんてことでも、強い力を持つこの泉なら可能なのだろうか?
「セシル」
呼びかけられて、振り返ると、思ったより近くにラーガが居た。
気付けば、抱きとめられていた。暖かい。触れた身体を通して、鼓動が聞こえる。
「会いたかった……」
胸の奥が針で刺したように痛む。ずっと、ひとりで此処で待っていたのだ。
セシルの他愛のない約束を信じて。
(私、でも、何も応えられない)
私はセシルじゃない。ラーガが会いたかった人とは違う。
ラーガの肩を掴んで身体を引き離した。
「セシル?」
ラーガが戸惑った顔をした。フィアは首を振った。
「待って。いくつか言わなくちゃいけないことがある」
ラーガがセシルを待ち焦がれていたのなら、なおのこと言わなければならない。
「ごめんなさい。私はセシルじゃない。セシルとよく似てるかもしれないけど、違うの」
似ていても、同じ記憶を持っていても、私はセシルじゃない。
フィアは目を伏せた。ラーガは赦さないだろう。待っていたのに、現れたのは全く別人だ。それに代償に捧げるには、長過ぎる時間が経っている。
「あなたが待っていた人じゃないのよ、私は…… でも本当なら、こんなはずじゃなくて、ここに居るのはセシルだったはずで」
ふいに、頭に柔らかい重みがかかる。
ラーガの大きな手だった。顔を上げると、彼は微笑んでいた。
「優しいんだね」
そう言って、ラーガはフィアの頭を撫でた。暖かくて、優しい手つきが心地いい。
そんな風に言われるとは、思ってもみなかった。
彼女の予想に反してラーガ本人が気にした素振りを見せなかったので、フィアはもう何も言えなくなってしまった。
「フェルベナスもそう言ってた。セシルが少し姿を変えて戻ってくるって」
「寂しくないの? セシルじゃないのに」
思わず口にすると、ラーガが小首を傾げた。
「おれ、わかるよ。キミの中にセシルが生きてる」
どういうことだろう。否定も肯定もできず、フィアは黙っていた。
「それでいいんだ。おれは、キミに会えてうれしいよ」
「……」
本心なのか。わからないが、ラーガの笑顔を見ていると、心が和むのがわかった。
ラーガが何でもないことのように続ける。
「ねぇ、セシルじゃないなら、なんて呼べばいい?」
「……フィア」
ラーガが微笑んだ。
「フィアは、イクス・マナンみたいだ」
「え?」
どう捉えればいいのかわからないことを言われて、思わず間抜けな声をあげてしまう。
「フィアは? おれに会って、嫌?」
「そんなことない」
疼いていた胸の奥の痛みがほんの少し、和らいでいた。
「うれしいよ。ありがとう、ラーガ」
ラーガが笑った。にっ、と歯を見せた、あどけない、満面の笑みで。
ふと、何かに気付いたように、ラーガが森に視線を向けた。
「どうしたの?」
つられてみやるが、特に変わった様子もない。ラーガが不思議そうに首を傾げた。
「いや、そういえばあいつら、付いてきてないなぁって」
「あいつら?」
「ちょっと見てくるね」
「え? あっ」
言っているうちに、ラーガは金色の大きな猫に姿を変え、そのまま走り出した。
「ま、待って!」
フィアも一緒に走り出した。
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ラーガ大好きですとも!
優しくて可愛くてもふもふな猫が大好きですとも!
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