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CHILDRENOFGROUND
第4章 千年の森
5:
:
唐突のことで、判断が追い付かない。大きく見開かれた嵐龍の赤い瞳に魅入っていたまま、フィアはその場に座り込んでいた。
第4章 千年の森
5:
:
唐突のことで、判断が追い付かない。大きく見開かれた嵐龍の赤い瞳に魅入っていたまま、フィアはその場に座り込んでいた。
応えない彼女に痺れを切らしたのか、嵐龍の咆哮とともに、真空刃が放たれた。
思わず目を閉じると、激しい衝突音と同時に、フィアの全身に水の礫が降りかかった。
見ると、浮遊する大量の水が、球体となってフィアを取り囲むように空中に渦巻いていた。嵐龍の刃を防いでくれたのか。
緑の龍は、翼を揺らすと、大きく口を開けた。
『フェルベナス! 何故邪魔立てをする!』
『鎮まりなさい、ウィンドルア』
音もなく、湖面に大きな影が現れた。
蒼い鱗。金の瞳。沃龍、フェルベナス。フィアの横に座り、嵐龍と対峙している。
『これは紛れもない、我等の最後の希望。いま失うわけにはいかない』
首を伸ばし鎮座するその姿は、足元に広がる清水のように洗練されていて美しい。
『希望だと? 小賢しい!』
嵐龍がまた吼えた。耳をつんざく甲高い悲鳴と、頭蓋に直接響く低い唸りに、フィアは思わず頭を抱えた。
『坤龍が消えた。この意味がわからぬお前ではあるまい』
「消えた?」
つぶやきが、聴こえたのか。嵐龍の大きな眼が、フィアを見た。
肩をすくませているうちに、沃龍の言葉が響く。
『この者の持つ力が、真性の浩龍の力だということでしょう、イド。貴方が愛した小さき妹と同じ――』
強い風が吹いて、湖面が漣だった。嵐龍の咆哮が駆け抜けた。
『黙れ!』
次の瞬間、沃龍の片翼が弾け跳んだ。
息を飲む。はじけた翼の断片は、一瞬で透明な水に転じた。水は水面に落ちることはなく、また元の位置に戻り、翼の形を作った。時間が撒き戻されるように、沃龍の翼が元にもどる。
静かな囁きが変わらず響く。
『嵐龍。我が兄。すべては遥か昔に始まった。今更、我々に何ができると?』
『その人間の娘は何もわかっていない』
その囁きに、胸の奥が苦しくなる。
いつもそうだ。私が何も覚えていないことが問題らしい。
『記憶は奪われたのでしょう』
『取り戻せないなら、終わらせるべきだ』
嵐龍が、尻尾で水面を叩いた。荒々しく、水が跳ねた。
『終わらせて、その先は? 光を失えば、闇も残らない終焉が待っている』
嵐龍は答えなかった。大きな翼をゆらゆらと揺らし、大きな瞼で数回瞬いた。
『あなたは小さき者に関わりすぎた。己を見誤っている。我らは龍。影にすぎない』
重ねて告げる沃龍の言葉に答えるように、嵐龍が大きな翼を開いた。
『それで満足か、フェルベナス』
『我等は臥して待つしかない。かねてからそうであるように』
『いいだろう』
『いいだろう』
嵐龍はそっと眼を伏せた。そして、数度羽ばたくと、巨体がふわりと宙に浮かんだ。
『最後だ。別れが近い』
言い残すと、嵐龍は溶けるように虚空に姿を消した。
強い風が消えて、静寂が森に戻る。
『さようなら、兄さん』
沃龍がそっと頭を垂れた。
フィアは、ただ目を見張って、沃龍を見つめていた。
目の前のやりとりの意味がわかるのは、ずっと、ずっと後のことだった。
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よく話す龍たち。
嵐龍みたいにツンツンした奴好きですよ、ええ大好きです。
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