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1週間も更新ないってどういうこと・・・!?

というわけで
01/11更新分のつづき

CHILDREN OF GROUND
第3章 山上の宴唄

2: ふたつ ふらちな ふうらいぼう





「ねぇ、ここって……宿というより……」
「娼館だな」
「ええっ?」
 
 フィアが後ずさった。

 クノンは不思議そうに館を見上げている。

「ここにいるの? 情報屋」
「いると思う。他に居所をしらん」
「いたらまだしも……いなかったらどうするんだい?」

 カシスは後頭部を掻いた。考えなくはなかった。情報屋がいなければ、すべて無駄足だ。

「どのみち今日はここに泊まることになるだろな。日が暮れちまったし」

 近くに人里はある。だが、今から向かうとなると、徒歩では真夜中過ぎに着くことになるだろう。

「いやだ! 絶対に嫌!」
 
 ヒステリックに叫んだのはフィアだった。見ると、道の反対側で後ずさって、木の陰に隠れている。カシスは顔をしかめた。

「なんだよ、泊まるだけだろ? 金もねぇし」
「金があれば何をするつもりなの?」
「情報を買います。当たり前だろ」

 咎めるように、フィアが睨み返してきた。木の陰から怖い顔をされても、滑稽にしかみえない。

 カシスは疲れを覚えて、頭を抱えた。

「揚げ足とるなよ。そういうつもり来たんじゃねぇし」
「でも、言わなかったわ! 娼館だなんて!」
「山奥の宿っつったら、多かれ少なかれワケありの宿に決まってんだろうが!」

 カシスも声を荒げた。というか、そうしないと会話しづらい距離だった。

「まぁまぁ、ふたりとも」

 2人の間にクノンが文字通り割り込んだ。フィアの声がキンキン響く。

「クノンはどうなの!? こんなのに巻き込まれて!」
「たしかに、こういうところならちゃんと説明してほしかったな」
「う…… 悪かったよ」

 思わず謝る。クノンは珍しく笑っていない。

 いつも和やかなだけに、冷静な眼差しが、厳しく感じられた。

「まぁ、まともなところじゃないってくらいの想像はしていたよ。今日は仕方ないから、僕は構わないけど」

 年の割に、さばさばしている。後ろで騒いでいる少女とは大違いである。

 当の少女は、まだ木の陰でぶつぶつ文句を繰り返していた。 

「体のいいこと言って、売りとばすつもりじゃないの?」
「売れるような女か? お前 ――っと!?」

 どこで見つけたか、拳大ほどの石が飛んできた。

 あまりに正確な投擲だったこと、暗くてよく見えなかったことが重なって、反応が遅れた。避け損なって、両手で叩き落とす。きわどいところだった。硬い衝撃が骨まで響いて、手のひらが痺れた。

 ごろん、と重そうに石が足元を転がる。

「ほれ見ろ、こんな暴力的なヤツに商売なんかできるかっ!」
「そういう問題じゃないでしょっ!?」

 手のひらの土を落としながら、やっとフィアが出て来た。
 
 痺れた手は、しばらく動きそうに無い。両手をもみ合わせながら、カシスは、あごで建物のほうをしゃくった。

「あのな、フィア。娼館と、宿は別棟になってるんだ。宿の一階は食堂兼酒場で騒がしいが、部屋は意外と普通だ。そこで朝まで寝てりゃいいだろ」
「意外と?」
「清潔だよ…… まあ、一晩中物音がしてるけど」
 
 一言余計だったかもしれない、と思ったのは、みるみるうちにフィアの表情が曇ったからだ。

 嫌そうに宿になっている建物をみつめ、喉の奥から搾り出すようにフィアが呻いた。

「私、野宿でいい」
「やめとけ。宿代は俺が出してやるから、大人しくしてろ」
「いい。近寄りたくない」

 まさか、こんなところでごねられるとは。

 もともと協調性のない奴だが、少し考えれば、こんな酒場つきの娼館の近くで野宿することが好ましくないことぐらいわかるはずだ。

「はっきり説明しなかったことは謝る。頼むから野宿なんてするな」

 ここでカシスが意地になってもしょうがない。

 フィアはやはり浮かない顔で、カシスと目を合わせようとはしなかった。

「……私を宿に閉じ込めて、2人はどうするの?」
「どういう意味だ?」

 語気が強くなる。嫌なものはしょうがない。だが。

「俺は、情報を買いにきたんだ。さっきからそう言ってるだろ。何が不満なんだよ」

 フィアは何か言いたそうだった。

 やっと上げた顔に、揺れた瞳が張り付いている。夕闇の薄明かりのせいか、今にも泣き出しそうにもみえて、カシスはぎくりとした。だが、カシスの思い込みだったらしい。いつもの固い表情に戻ると、フィアは吐き捨てるように言った。

「山を降りるわ。夜通し歩けば、文句はないでしょう」

 その言葉に、胸の奥が軋んだ音を立てた。

 カシスは、何も言い返せなかった。言い返したくなかった。

 遠まわしに、彼女が決別を告げているとわかった。余計なことを言えば、彼女は本当に去っていくだろう。

「やめようよ、こんなことで…… 僕はそんなの嫌だよ、フィア」

 穏やかな声音でクノンが割ってはいった。クノンが居てくれてよかったと思う。

 カシスとて、こんな理不尽な決別は心外だ。なにより後味が悪い。

「だから男は嫌い」

 どうしろってんだ――

 そう思ったとき、唐突に娼館のほうの門が開いた。

-----------------------------------------
ちがうよ! フィアは純情なだけなんだ! いい子なんだ! 邪推しないで!
つづく。

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