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01/07投稿分のつづき。
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CHILDREN OF GROUND
第3章 山上の宴唄
1:ひとつ ひめごと ひのようじん
15歳まで、カシスは、自分がまったくの孤児でないことを知らなかった。カシスの父親は、スイの実兄だった。
スイによれば、彼の父親は若い時分に家を飛び出したという。実家には二度と戻らず、どこかで勝手に所帯をもった。だが、そこでも突然旅に出て姿を消し、路頭に迷ったカシスの母が、スイを尋ねてきたらしい。彼女の腕には、生まれて間もない赤子が抱かれていた。
その母親からとりあげた赤子がお前だ―― そう告げた師の顔を見て、カシスは初めて彼が冷徹だと思った。
「というわけでだな、俺はな」
事実を知って、カシスは実母を訪ねた。居場所はスイが知っていた。
母親は、独り静かに暮らしていた。彼女はずっと、父親の帰りを待っていた。そんな母親の姿を見て、カシスは決めた―― 父親を、この人のもとに連れ戻そう。
そしてひとり旅に出て、今に至る。
「意外だねぇ、カシスが」
クノンが妙に感心したように頷く様子が、かえって癪に障る。
「久しぶりにいい話聴いたわ。お父さん、見つかりそう?」
クノンとはうってかわって、フィアは斜に構えた態度だった。
「いや、だって見つかりっこないでしょ。どこに行ったか、見当ついてるの?」
正論なのだろう。おそらく。同じことを考えないでもなかった。
カシスには、師や母のように、不在の父の影を想い描きながら、届かぬ想いを積み上げて暮らすことに、どうしても納得いかなかった。
どうして旅立ったのか。どうして家族を置いていったのか。
知りたいと思うことが、間違っているのか。
「……何もかも捨ててここまできた。今更やめたところで、何か残ってるわけでもない」
(別に、お前が怒ることでもねぇだろうが)
ため息をついて、カシスは違うことを口にした。
「剣豪」
フィアがきょとんとした顔をした。
無駄に放浪していたわけではない。自分も、父も。
「その足取りを辿れば、別に親父が見つかるとまでは言わねぇが、何かわかるだろ」
本当に父親を連れ戻せるとは、今更思っていない。
師も母も、父を罵っても、決して責めなかった。そういう人だった。ふたりとも、そう言って最後に笑った。
どうして笑っていられるのか、カシスにはわからなかった。
空を見上げる。突き抜けるような空の上に、ゆったりと雲が漂う。
(結局俺が欲しいのは、納得のいくような事実なんだ)
「知りたいんだ。剣豪ギルマディウスが何を考えていたのか」
「ぎるまでぃうす?」
次の瞬間、カシスの耳に届いたのは笑い声だった。見やると、フィアが腹を抱えて大笑いしていた。クノンまでも口元を歪ませている。
「すっごい名前! かっこいい!」
「お前…… 別にいいけど、人の名前を笑うなよ」
「長い名前付けるのが、家風なんだよ。スイ先生だって、ほんとはスイジリウスって――」
これといった邪推もないのだろう。屈託のない笑顔で、クノンが訊いてきた。
だが、その言葉は、妙に重くカシスのなかで響いた。
自分にも、本当の名があるのだろうか?
あるとすれば、それは一体誰がつけたのだろう。
--------------------------------------------
半端なところで…
一応19歳なんです、カシス。
第3章 山上の宴唄
1:ひとつ ひめごと ひのようじん
「え? 父親?」
「文句あるのか」
カシスが旅に出てからそろそろ5年になる。
それまでは、ある農村の、ある剣術道場で暮らしていた。カシスは捨て子で、その道場の師範と彼の妻を親がわりに育った。師範のことを、スイ先生、と彼は呼んでいた。
カシスが旅に出てからそろそろ5年になる。
それまでは、ある農村の、ある剣術道場で暮らしていた。カシスは捨て子で、その道場の師範と彼の妻を親がわりに育った。師範のことを、スイ先生、と彼は呼んでいた。
道場は寂れていた。その道場で稽古しているのは、カシスとあと一人だけだった。スイが見習いだったころが全盛期だったらしい。今では、スイが副業として村の子供たちに読み書きを教えている教室のほうが盛んだった。
15歳まで、カシスは、自分がまったくの孤児でないことを知らなかった。カシスの父親は、スイの実兄だった。
スイによれば、彼の父親は若い時分に家を飛び出したという。実家には二度と戻らず、どこかで勝手に所帯をもった。だが、そこでも突然旅に出て姿を消し、路頭に迷ったカシスの母が、スイを尋ねてきたらしい。彼女の腕には、生まれて間もない赤子が抱かれていた。
その母親からとりあげた赤子がお前だ―― そう告げた師の顔を見て、カシスは初めて彼が冷徹だと思った。
「というわけでだな、俺はな」
「お母さんのために、お父さん探してるんだね」
「とんだ孝行息子ね」
「うるせぇ!」
事実を知って、カシスは実母を訪ねた。居場所はスイが知っていた。
母親は、独り静かに暮らしていた。彼女はずっと、父親の帰りを待っていた。そんな母親の姿を見て、カシスは決めた―― 父親を、この人のもとに連れ戻そう。
そしてひとり旅に出て、今に至る。
「意外だねぇ、カシスが」
「ガキだったんだよ、その頃は」
クノンが妙に感心したように頷く様子が、かえって癪に障る。
「久しぶりにいい話聴いたわ。お父さん、見つかりそう?」
「おまえ、馬鹿にしてるだろ」
クノンとはうってかわって、フィアは斜に構えた態度だった。
「いや、だって見つかりっこないでしょ。どこに行ったか、見当ついてるの?」
「……」
見当がつかないから、こうして情報屋をあてにしているのだが。
「どこ行ったかわかんない父親探すより、母親のそばにいてあげるのが孝行ってもんなんじゃないの?」
見当がつかないから、こうして情報屋をあてにしているのだが。
「どこ行ったかわかんない父親探すより、母親のそばにいてあげるのが孝行ってもんなんじゃないの?」
正論なのだろう。おそらく。同じことを考えないでもなかった。
カシスには、師や母のように、不在の父の影を想い描きながら、届かぬ想いを積み上げて暮らすことに、どうしても納得いかなかった。
どうして旅立ったのか。どうして家族を置いていったのか。
知りたいと思うことが、間違っているのか。
「……何もかも捨ててここまできた。今更やめたところで、何か残ってるわけでもない」
「馬鹿みたい。素直に帰ればいいのに」
フィアが鼻で笑った。実際には笑っていない。義憤でも感じているのか、敵意がむき出しだった。クノンが気づかうように、フィアの顔色をちらちらと伺っていた。
フィアが鼻で笑った。実際には笑っていない。義憤でも感じているのか、敵意がむき出しだった。クノンが気づかうように、フィアの顔色をちらちらと伺っていた。
(別に、お前が怒ることでもねぇだろうが)
ため息をついて、カシスは違うことを口にした。
「剣豪」
「え?」
「強かったらしい。武勇譚がいくつかある」
フィアがきょとんとした顔をした。
無駄に放浪していたわけではない。自分も、父も。
「その足取りを辿れば、別に親父が見つかるとまでは言わねぇが、何かわかるだろ」
本当に父親を連れ戻せるとは、今更思っていない。
師も母も、父を罵っても、決して責めなかった。そういう人だった。ふたりとも、そう言って最後に笑った。
どうして笑っていられるのか、カシスにはわからなかった。
空を見上げる。突き抜けるような空の上に、ゆったりと雲が漂う。
(結局俺が欲しいのは、納得のいくような事実なんだ)
「知りたいんだ。剣豪ギルマディウスが何を考えていたのか」
「ぎるまでぃうす?」
次の瞬間、カシスの耳に届いたのは笑い声だった。見やると、フィアが腹を抱えて大笑いしていた。クノンまでも口元を歪ませている。
「すっごい名前! かっこいい!」
「お前…… 別にいいけど、人の名前を笑うなよ」
変なところで笑いだされて、真面目に話そうと思っていた自分が気恥ずかしくなる。
「だぁってさぁ!」
フィアが快活な声をあげた。
自分だって大層な名前してないだろ、とカシスは胸中毒づいた。
悪魔狩り、と名高いご先祖だ。悪魔に自分の名前を奪われないようにと、わざと言い難い名前や長い名前をつける習慣が残っている。だが、この習慣はもう廃れ行くだろう。現当主であるスイに嫡子はいない。
悪魔狩り、と名高いご先祖だ。悪魔に自分の名前を奪われないようにと、わざと言い難い名前や長い名前をつける習慣が残っている。だが、この習慣はもう廃れ行くだろう。現当主であるスイに嫡子はいない。
「長い名前付けるのが、家風なんだよ。スイ先生だって、ほんとはスイジリウスって――」
「じゃあ、カシスも本当は長い名前なの?」
これといった邪推もないのだろう。屈託のない笑顔で、クノンが訊いてきた。
だが、その言葉は、妙に重くカシスのなかで響いた。
「……思いつかなかった」
自分にも、本当の名があるのだろうか?
あるとすれば、それは一体誰がつけたのだろう。
--------------------------------------------
半端なところで…
一応19歳なんです、カシス。
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