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大晦日? なにそれ おいしい?

12/28投稿分のつづき

CHILDREN OF GROUND
第2章 過去より 遣わされる者
4:牙



 見上げると、月を背に、ひとりの男がいた。
 
 黒い外套。銀の髪。赤い目。

 空中に浮かぶその姿は、男が只者でないことを示していた。

 ひとつとして、見覚えは無い。

 見覚えなど、無いはずなのに。

 イルミナが、怯えた声をあげた。

「お前は」

 全身が総毛だった。

 知っている。

 私は、こいつを、知っている。

『盟約の時はきた!』
 
 先刻のイルミナと同じように、フィアは剣を地面につきたてた。

 剣から解き放たれた力の渦が、風となって吹き荒れる。耳元で、空気が唸る。髪が宙を踊る。風は輝きをおびて、辺りが白く照らし出された。

 私は、この瞬間を待っていた。
 
 両腕を前に突き出し、詠唱を続ける。

『牙は輝きから生まれ、輝きは力より分かたれ、力は虚無より現れた。忘れ去られた古き約束、折れた牙は剣をとり、虚無の門を尋ね行く! 浩々たる空隙に汝あり、全ての始原に我はあり! 今こそ悲願は果たされた! 我を器に、現われよ!』

 澱みなくすべり出る呪文は、今まで唱えたことない言葉だった。 

『汝の名は――』

「無駄だよ」

 ばちん、と板を水面にたたきつけたような、激しい音がした。輝く風が消し飛び、暗闇がもどる。

 フィアは両腕を弾かれ、思わずたたらを踏んだ。先ほどのイルミナと同じだ。指先が痺れ、戦慄いた。

「ここは、始まりというには遠すぎる」

 フィアは、最後まで聴いていなかった。剣を引き抜き、言霊とともに男がいる高さまで撥ね上がる。

「……ああああっ!!」

 叫びながら、頭上高くに振り上げた剣を、渾身の力で振り下ろした。

 男は、何気なく片手を挙げた。まるで、剣に手を添えるように。

 次の瞬間、フィアは地面に叩きつけられていた。

「……!? 」

 地面だと思ったのは、土の匂いがしたから。幸い腐葉土だったので、致命傷にはならなかった。

 しかし、一度弾んだ身体からは、空気が搾り取られ、一時呼吸困難に陥る。

「光を見失った牙に、何ができる?」

 そういいながら、男は地面に降り立った。とっ、と軽い音が響く。

「探したよ、イルミナ」
「こないで!」

 声だけが聴こえる。イルミナが裏返った声で叫んだ。
 
「いやよ! わたし、消えたくない! わたし、生きていたい!」
「生きる?」
 
 感情のない、男の言葉。優しく響くようでいて、とても冷たい。
 
「生きるって?」
「やめて」
「光に拒まれた闇に、なんの意味が?」
「やめて!」
 
 体が、動かない。立ち上がらねば。

 護らなければ――
 
「わたしも昏竜だもの。兄様やレリス様とおなじだもの! あなたの人形じゃない!」
「そうか」

 体をよじる。イルミナは、どこだ。

 だが、うつぶせの姿勢で見えるのは、暗い土の色だけだった。
 
「昏竜は、もう私のものだ。昏龍であることを望むなら、そなたも闇に還るといい」
「助けて、だれか!」
 
 ふっ、と風が吹いたような。

 空気が揺れた。
 
 フィアには見えなかった。視界は、腐葉土に埋もれていた。

 だが、彼女の中の輝きが、感じ取っていた。
 
 その存在はあまりに小さかった。
 
 だがその重さは、果てしなく重かった。
 
 彼女と同じように、分かたれて地上に落とされた、たったひとつの存在。
 
 わずか残った小さな闇が、消えてしまった。
 
 色という色が失せ、音という音が失せる一瞬。
 
 月が、揺れる。
 
 身体を跳ね起こす。両の足で地面を蹴る。
 
 口を開けば、喉から絶叫がはきだされた。
 
 手には、剣がある。 
 
 踏み込むたびに土が舞い上がる。
 
 イルミナの姿はなかった。 
 
 男はまだそこにいた。
 
 必殺の角度で突き出した剣は、当たらなかった。
 
 はっと、息を飲む。
 
 抱きとめられるほど近く。男はフィアに身を寄せていた。

「キミにはまだ思い出してほしいことがある」

 耳打ちされるあいだ、一指たりとも動けなかった。

「浩々たる空隙より分かたれた、小さな光」

 耳元に寄せられた唇からは、本当に誰かそこにいるのか疑わしいほど、何のぬくもりも感じられなかった。

「……北へおいで」

 一陣の風が吹いた。
 
 森が鳴きやむころには、もうそこには誰もいなかった。

 唐突に。

 あまりにも唐突に、終わってしまった。
 
 剣が、行く先を失って、地面に落ちる。
 
 月が青白く照らす夜に、悲鳴が響き渡った。
 
      * * * 
 
 石造りの部屋。立ち尽くす私と、横たわった親友。

 赤く染まった彼の白装束。赤く染まった短剣。

 安らかな死に顔。わななく両手。同じ赤で汚れていて。

 視界が戻らない。

 暗闇で、声がする。

 ――約束だよ、セシル。

 ああ、わかっている。

 命に代えた約束を、果たせないとは言わない。

 何度でも剣をとろう。

 牙となって。

 何度でも。
 
 
 
 
「さて、お前にこの闇がこえられるか? ピラウス」
 
 
 
 
-----------------
あああああ失策
年内に終わらなかったー!
エピローグは年明けに…
凄く半端な年明けにつづく

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