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試験も残すところあとひとつ!
でも明日はとりあえず会社説明会!
あとは研究発表会用のスライドをつくれば
晴れてエントリーシートの山に取り組める!
稽古も行かないと!
DVDも作らないと!
はやくビデオ返さないと!
予約キャンセル忘れそう!


うおお うおおおお


何はともあれ現実逃避。
2/04投稿分のつづき
 

CHILDREN OF GROUND
第3章 山上の宴唄
3: みっつ みだらな みぼうじん






 ふわっ、と甘い香りが漂ってきた。酒でも料理の匂いでもない。香水だ。いやらしくない、柑橘系の香りだ。そして、視界の端に、どこかで見たような絹のショールが割り込んできた。首を動かさず横目で見やると、隣の椅子が引かれ、誰かが上品に腰掛けた。

 フィアは、フードをしている。互いに顔は見えない。フィアに見えたのは、せいぜいテーブルに着いた細くて白い肘だ。相手からも、おそらく引きつったフィアの口元ぐらいしか見えないはずだ。

 数秒無視していたが、根負けしてフィアは顔をむけた。やはり、さきほど門で見たエトだった。面白がるように、ずっとこちらをむいている。

「なにか?」
「ううん。時間が空いたから、休憩」

 エトはそういうと、カウンターのバーテンダーに何か飲み物を頼んだようだった。

 男は一瞬だけ表情を曇らせ、ちらりとフィアを一瞥した。できるだけフィアは目を合わせないようにした。

「姐さん、お仕事は?」
「あら。お仕事中よ」

 バーテンダーは納得したわけではないのだろうが、それだけで引き下がった。忙しいのもあるだろう。

 改めて、フィアはエトを眺めた。同性である自分からみても、美しいひとだ。綺麗に結い上げられた髪。高級なのだろうが、控えめなデザインの装飾品。ベージュのナイトドレス。淡い紫のショール。その間からのぞく白く華奢な肢体。清潔感があるが、艶っぽさもある。おそらく、大方の男性はこういう女性が好みなんだろう。

「なあに?」

 じっと見ていたせいか、エトが小首を傾げた。フィアより年上のはずだが、愛らしい。

 だが、フィアは表情を崩す気にはなれなかった。

「休憩なの? 仕事なの?」
「ふふ。まあ、座りましょ」

 エトは笑った。答えるつもりはないらしい。

 薦められるがままに、隣の席に座る。天井から小さなランプがさがり、エトが身につける宝石が柔らかな光を帯びて揺らめいた。

 座ってもやはり微笑みを浮かべたまま、エトはフィアを観察しているようだった。

「ね、どうして顔を隠しているの?」
「……隠さない理由がないから」
「ふうん」

 苦し紛れの答えだったが、彼女は追及してこなかった。

「もったいないな。かわいいのに」

 フィアは黙った。想像しなかった返答にドキリとしたことは否めない。だがそれ以上に、全く真意のつかめない彼女の言葉に底知れないものを覚えたせいもある。

 そのとき、カウンターに座る二人の下に飲み物の注がれた小さなゴブレットが届いた。

 エトは、ゴブレットを取ると、フィアにも杯をとるよう仕草で促した。戸惑ったが、促されるままに杯を掲げる。

「乾杯」

 優しい声音とともに、コン、と乾いた音が響く。打ち鳴らされた杯の中で、果実酒が揺れる。

 何に乾杯するのだろうか―― フィアは言葉を返さず、赤い液体を一口だけ口に含んだ。

 エトも同じように少しだけ飲むと、間をおかず身を乗り出してきた。

「ねぇねぇ、本当にカシスとは森で会ったの?」
「そうよ。2人とは森で会った」

 2人、というところをあえて強調した。素直に頷くのはなんだか嫌だった。

「貴女はなんで森に?」
「別に、カシスに会うためじゃないけれど」

 ちょうどそのとき、給仕係の男が一人、通り過ぎ様にエトに声を掛けたところだった。エトも明るい声音で挨拶を返していた。

「え、なあに?」 

 エトが聞きなおしてきた。嫌味でもなく、単純に気がそれて聞こえなかったようだ。

 つまらないことを言った気恥ずかしさに、言葉を濁す。

「私も、伝説のアレを探していたの」
「ああ、さっきの宝石ね? すごいわね、女の子なのに」
「どうも」

 とりあえず受け流したが、なにがどうすごいのか、女だったらなんなのか、フィアにはよくわからなかった。あまり、深く考えたくもない。

 はぁ、とエトが切ない吐息をこぼした。

「いいなぁ」
(なにが?)

 皮肉に歪む口元をごまかすため、グラスを口につける。

「そういう出会いだったら、カシスは私に会いにきてくれたかな」

 つけかけた唇を、つと離す。

 エトを見ると、笑っていない。寂しげに自分のグラスを眺めていた。

 かけるべき言葉も見当たらず、彼女が何か言うのを待つ。

「なんて、言ってることが変ね。そんな出会いができるなら、私はここにいないもの」

 微笑む。年上だと思っていたが、もしかしたら、あまり年は変わらないのではないか。

「……あなたは、彼が好きなの?」
「彼、だって」

 おもしろがるように、エトが微笑む。

「好きよ」

 こんなお仕事してるとなかなか信じてもらえないけど――、とエトは苦笑を浮かべながら付け加えた。

「……」

 あっさりと言ってのけたエトに、フィアは戸惑いを隠せなかった。そんなものだろうか。好きだとか、そういう言葉に過敏な自分が幼いのかもしれない。

 なんだか、気まずい。酒を流し込む。 

「きっと、カシスもそう思ってるのね」
「え?」
 
 話しの流れを見失って、思わずフィアは聞き返してしまった。

「だって、私の話、まともに取り合ってくれないもの」
「……マシな会話をしているように見えたけれど」

 出会って日が浅いが、会話の中には『うるせぇ』とか『やかましい』といった暴言が必ず飛んでくる。まともに会話してくれるのはクノンぐらいだ。

「そうねぇ、そういうところが…… ずるいよね」

 エトは何か納得したように頷いた。

 その様子を横目で見ながら、フィアは首をひねった。

「一体……その、どこがいいの?」
「優しいところ」

 優しい? 

 思い浮かんだ黒髪の青年は、雑言とともに魔道師の少年を小突いているところだった。記憶にあるその光景と『優しい』という言葉はおよそ結びつかなかった。言葉を聞き違えたのか、それとも知らないうちに言葉の意味がちぐはぐになってしまったのだろうか。
 
 フィアは眉間に手を添えた。気づいた風もなく、エトは続けた。

「あと、他のひとと違って、私の機嫌をとろうとしないところ。無邪気、っていうのかしら」  
「……そう?」

 そうだろうか。さっきの会話は、機嫌をとろうとした言葉が混じってなかったろうか。仔細は覚えていない。たぶん、そういう素っ気ないやりとりだったかもしれない。

 それとも、と思う。余人には聴こえない意味が、2人の会話には込められていたのかもしれない。意外なのは、あの無骨な男が、そういう繊細なやりとりができるということだ。

 どのみち自分には関係ない話だ。あえて突き詰めることはしなかった。無駄なことは言わないように、フィアはもう一口酒を飲んだ。甘い風味が、口腔いっぱいに広がる。

「あなたは ――そうだ、まだ名前訊いてなかったわ」
「え」

 エトが突然切り出した。名前を聞かれた、と気づくのに時間がかかった。

「……フィア」
「フィア、って呼び捨てで呼んでもいい?」
「どうぞ」
「うん。じゃあ私もエトって呼んでね、フィア」

 エトの目が細くなる。彼女の瞳が揺れたように見えた。

「私が、なに?」
「え? なぁに?」
「さっき、何か言いかけた」

 聴きながら、フィアは視線を手元の杯にこぼした。

 やはり、視界が少し揺れている。酔いが回ってきたようだ。疲れているからか、いつもより回りが早い気がした。

「なにかしら…… そうそう」

 エトが、酒をあおる。

「フィアはカシスのどんなところが好き?」
「好きじゃない。ああいうの」

 くだらない。失笑がこぼれる。誰も彼もが、あなたと同じ価値観というわけじゃない。

「そうなの?」
「同行しているだけよ」
「でも、カシスはきっと、あなたのこと好きよ」

 本当は、顔をあげるのは億劫だったが、フィアはまっすぐエトを見た。彼女は自信ありげに見えた。

「どうして?」
「だって、顔にそう書いてあるもの」

 そういうのを、無根拠というのだ。

「まるで、人の心が読めるような口ぶりね」
「そうかも」

 答えながら、エトが、急に席を立った。彼女は一歩後ずさりながら、沈んだ声で告げた。

「あなたはもう少し、人を疑うべきだわ、フィア」

 気づくと、背後に何かがいる。

 舌打ちして、椅子を蹴って立ち上がる。が、膝に力が入らない。これは、アルコールではない。一杯も飲んでないのに、此処まで酩酊することは今までなかった。

 立ちくらみがする。その場に崩れ落ちそうになるのを、両脇から支えられる。二人。男か。顔を見たいが、体が動かない。

「何を――」

 何をした、と言いたかったが、呂律が回らなかった。

 エトを睨みつける。彼女は、すまなさそうに目を伏せた。

「ごめんなさい…… でも、私も買われてる身なの。許して……」

 彼女の言葉の意味を理解するまえに、みぞおちに深く拳が刺さった。






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古典的! 全てが古典的! だが一度はやってみたい!
良い女は、ツンツン小娘視点で書くとなんか嫌な人に見える至極残念。
つづけー!

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