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つい調子に乗って
いっぱい投稿しちゃうよ!

12/10投稿文のつづき

CHILDREN OF GROUND
第2章 過去より 遣わされる者
2:彼女の真実



 嘘にしては、ぬらリと重い、生々しい響きがある。

「お前一人で?」
「そうよ」

 答えながら、彼女は身体を横たわらせた。やはり辛いのだろう。
 
 カシスは、床から腰を離して、彼女の隣に座りなおした。フィアは何も言わなかった。辛そうにきつく目を閉じた横顔が見えた。

 その横顔に、言葉を投げかける。

「なんで殺した?」
「なんで、って?」
 
 フィアは目を閉じたままだった。

「皆殺しなんて、ひとりでやるのは難しいだろ。どうやった? 魔法か?」
「……おもしろいこと訊くのね」

 そういうが、彼女は少しもおもしろがっていないことぐらいわかってた。

「……別に。剣で」
「そうか」

 カシスは頷いた。頬杖をついて、張り詰めていた息を少し緩ませる。
 
「すげぇな。すぐ脂で鈍って、大根だって斬れねぇぞ」

 フィアが目を開けた。自分の言葉のいい加減さに気づいたのだろう。

 嘘にしては、彼女の声は重い。だが、何かおかしい。

「すぐ割れる嘘はやめろ」
「嘘じゃない」
 
 フィアの反応は早かった。肘をついて、少しだけ上半身を浮かせると、カシスを睨んだ。

「剣も使ったけど、光でも焼いた。あとは――」
「ただの殺人嗜好者だったら、自分の手口はもっと楽しそうに話すもんだ」

 フィアが口をつぐんだ。目だけは変わらずカシスを睨んでいた。

「なんか、事情があったんだろ」

 嘘ではないのだろう。市場で襲ってきた少女もただならぬ雰囲気だった。フィアがかたくなに人を拒むのも、何かわけがあるとは思っていた。

 だが、それでも、違う。
 
「人を斬ったこと、あるの?」
 
 カシスは苦笑を浮かべた。

 そんな問いで切り返されるとは思わなかった、というのもある。

 それより、彼女の問いかけが不覚にも胸に刺さったということが、自嘲をよぶ。

 フィアから目を逸らし、天井を見上げる。少し、ほんの少しの間、言葉に詰まる。答えはひとつしかない。分かっているのに、話し方を忘れたかのように、喉は震えて声が出ない。

「なくは、ないさ。こんな生活してれば、な」
 
 必死で探して、やっと出て来たのはその程度の言葉だった。

 思い出が、こんなに深く自分に根付いているとは思わなかった。

「……気分のいいもんじゃない」

 自分のことなのに、誰かに触れられて、気づくこともある。嫌なことは、特に。

「……なぜ?」
 
 ためらいがちに、フィアが尋ねた。肩をすくめる。

「さぁ、なんでかね。しょうがなかったんだよ、たぶん。俺が死ぬか、相手が死ぬか、どっちかしかなかった」

 しょうがない、というのは、自分への言い訳だ。

 たったひとりだが、今でも斬ったのを悔やんでいる。だが斬らねば、カシスが死んでいた。それでも何か他にやりようがあったのでは、と時々考えてしまう。

 思考は巡るが答えはでない。いや、答えなどあるはずが無い。あの時だけ、自分の中で時間が止まっているのがわかる。

 悔やむというのは、そういうことだ。

「辛くないの?」
「辛いよ。できれば斬りたくなかった」
「恋人?」
 
 耳を疑って、フィアを肩越しに見やる。

 からかわれているのか思ったが、彼女はいたって真面目な面持ちだった。

「……凄いこと言うんだな。惚れた女なら、大人しく首を差し出してやるよ」

 どこかの芝居じゃあるまいし。なぜ、彼女がそんなことを訊くのか――

 ふと、閃いて。カシスはフィアを振り返った。

「恋仲だったのか? お前と、なんだっけ、あのガキのお兄さんとやらと」
「私じゃないけど、サイは親友だった。すごく信頼してた」
「……ん? 誰と誰が親友だったって?」
「セシルと、サイが。小さい頃から、ずっと」 
「せしる?」
「私」
「……お前は、親友じゃなかったんだろ?」
「そう」

 眉をひそめて、彼女を見つめる。フィアは、また身体を仰向けに寝かせると、額に手を置いて、目を瞑った。

 先ほどの言動といい、寝ぼけているのかと思った。だが声の調子は、しっかりしている。

「お前、言ってることがおかしくないか? それとも俺が馬鹿なのか?」
「馬鹿なんじゃない?」

 くす、とフィアが笑った。それ以上の説明をする気はないらしい。
 
 淡い夕日の色がだんだんと薄れ、暗くなっていく。
 
 彼女は左腕を見つめていた。黒布がないことは、もう気づいていたらしい。
 
 左の前腕に、蛇とも魔物ともつかない生き物の影が絡み付いている。

「その痣、刺青じゃないな」
「そうよ」

 存外、フィアはあっさりと答えた。

「生まれつきか?」 
「1年前から。気づいたら、あった」
「気づいたら?」

 いちいち言葉が足りないのは、話が下手だからか。それとも彼女自身、何を話せばいいのかわからないからだろうか。
 
「イルミナに、初めて会ったとき。命拾いして…我に返ったときには、この痣が」

 フィアは言葉を区切った。ゆっくりと身体を起こす。カシスの目をみて、彼女はかすれた声で呟いた。

「信じられる?」
「人殺しの話よりも」

 消えかけた陽光が、見開いた彼女の瞳に宿る。

「あんたの判断基準、疑うわ」
「声が違う」
「いい耳してるのね」

 カシスは真面目に答えたつもりだが、彼女は鼻で笑った。

 なんと言えば伝わるだろう。

 少しの間だけ言葉を選んで、カシスは言った。

「俺を刺さなかった」
「え?」
「さっき」

 出し抜けに言葉を放っていることは分かっていた。
 
 フィアは呆気にとられたようだった。
 
「……あんたがよけたんでしょ」
「次手はなかった」

 フィアが眉をひそめた。

「なによそれ…だから、なに?」
「お前は、あの娘も殺さなかった」
「だって、それは――」

 それまで威勢の良かった声が、揺れた。

「殺すとか… そんなの」

 できるわけない。

 この少女に、むやみに誰かの命を奪うことなど、できるはずがない。

 彼女が優しいとか、そんなことじゃない。そんなこと言うつもりも無いし、興味も無い。

 だが、彼女はできない。 
 
「自分だって辛かったんでしょ? 人を斬ったこと、悔やんでるんでしょ?」
「そうだな」
「だったら、どうしてそんなこと言うの?」

 躍起になったフィアが、跳ね起きた。

 刺すほどに鋭く輝く、儚く彩られた淡青色の瞳。

「お前が嘘つくからだ」
「嘘なんかついてないって!」
「自分の気持ちに嘘ついてんだろ」

 事実なんて、どうだっていい。

 そんなものは、その場にいた人間の考え方次第で、どうとでも捻じ曲げられる。

 カシスが訊きたいのは、彼女の気持ちだ。

 どうして、そんなにいつも哀しい顔をしてるんだ?

 その目で一体なにを見てきたんだ?

 なにをそんなに怯えている?
 
「……あの子は、イルミナじゃない」

 ゆっくりと。

 吐き出す息に紛れて、聴こえなくなりそうな。

 そんな震える声で、彼女は告げた。

「イルミナじゃない。私も、セシルじゃない……違うのに……」

 わななく唇を押さえる手が、やがて彼女の顔を覆った。

 口元の震えは、手を伝い、やがて肩へうつった。
 
「一族なんて知らないの。私は、私は殺してなんか、いないし……何も知らない……」

 やっと聴こえた。
 
 彼女の、本当の言葉。

「聴いて、くれるの? こんな話を」

 たとえ途方もなく長い物語だとしても――

「俺でよければ」

 それが、聴きたかったんだ。



-------------------------
カシスのこういうところが好き。
適当にごまかせない正直なフィアも好きだ。
でも上手く物語として表せないところに
自分の文才の限界を感じます。

フィアの目の色は淡青色でいこうと思います(心のメモ)
また水色とか書いていたらごめんなさい。
つづく。



 

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