忍者ブログ
↓「はじめに」をごらんください (*´∀`*) ↓    
[41]  [40]  [39]  [38]  [37]  [36]  [35]  [34]  [32]  [31]  [30
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

今日はサンドイッチとカロリーメイトしか喰ってません。

空腹だからこそ妄想でおなか一杯になるんだ!
12/16投稿文のつづきー

CHILDREN OF GROUND
第2章 過去より、遣わされる者
3:月夜に語られる

 誰も居なくなった部屋で、フィアはひとりで天井を見上げていた。

 覚えていない。いや、思い出せない。

 セシルは、何か理由があって、ピラウスの力と彼女の記憶を失うわけにはいかなかった。そのために、何かしらの秘術を使った。

 彼女の思惑どおり、力は失われなかった。“セシル”からこぼれでた浩龍の力は、長い時間をかけて、ゆっくりと形を取り戻し、“フィア”という器を得て蘇った。しかし、セシルの記憶は、完全には取り戻されない。

 フィアにしてみれば、突然、抜き身の剣をわたされたようなものだ。使い方もよくわからないまま、近くに向けるべき相手がいるようにも思えない。ただ持っているのは危険だし、重い。なにより怖い。かといって、納める鞘もない。この剣を、どうすればいい? 

(ただの剣だったら、捨てることもできた)

 彼女を導いてくれるはずのセシルの記憶が失われたまま、フィアは2年さまよった。始めの1年は、それこそあてもなく。

 転換点は、あの日。あの娘に再会したとき。

     * * *
 
 たったひとりで、当てもなく放浪していた。
 
 弟を失い、大怪我を負って以来、夜は悪夢にうなされていた。見知らぬ誰かの夢。野宿暮らしが長いせいもあるが、疲労がたまって昼間は頭痛にさいなまれていた。そんなある日のことだ。

 優しい春雨が降っていた。木々に囲まれた街道で、突然現れた少女に微笑みかけられた。

 それが、イルミナだった。

「お久しぶりね、姉様」

 再会と言っても、フィアには全く覚えはない。

 見知らぬ少女に、わけもわからず殺されそうになった。

 そのときは、どうにか殺されずに済んだ。イルミナの昏龍の力に触れて、龍の力の使い方を思い出すことができた。それで、その場は一命をとりとめた。

     * * *
 
 見知らぬ誰かの夢は、過去にあった現実なのだと知った。

 イルミナを退けたあと、それまで何もなかったはずの彼女の左腕には、痣がはっきりと浮かび上がっていた。

 そのときに、決めた。

 失われた記憶が戻らないならば探しに行こう、と。

 彼女は龍を探すことにした。無限の時を生きる龍ならば、龍族の末路を知っているかもしれない。セシルのことも、何か知っているかもしれない。
 
 あの日に変わったことは、探すモノを決めたこと。龍を探して、さらに1年をさまよった。やっと見つけたのは、あの《沈黙の森》の坤龍だった。だが、坤龍は既に器を失くし、死んでいた。何かを訊き出す状態ではなかった。

(どうしてシルギルトアは死んでいたの?)

 セシルが死んで、つまり龍族が滅んでから、およそ千年は経っている。その間に、何があったのだろうか。一抹の不安がよぎる。もしかして、他の龍もみな同じように死んでしまっているのではないだろうか。

(イルミナは、そのことに気づいているのかしら)

 やはり、もう一度会わねばならない。

 互いに剣を向けるだけだとしても、この世でたったふたりの龍族なのだとしたら。

 ベッドから起き上がる。マントは、備え付けの椅子の背に掛けてある。

(もう逃げるのは、やめにしよう)

 あの子が何度襲ってきても、そのたびに追い払えばいい。私なら、きっとできる。そうしてずっと、生きていけばいい。いつかイルミナの憎しみが絶えるまで。イルミナもセシルも、もう故人なのだ。私達のどちらかが死ぬ必要などない。たとえ、彼女の憎しみが絶えることがなくても、それでも仕方がない。ずっと、その気持ちに応えていこう。

 昏龍の力に応えられるのは、浩龍の力だけなのだから。

 マントを羽織ると、首に違和感を感じる。触れて、思い出す。市場でもらった、お守り。

 誰だって、苦しみながら生きている。

 私ひとりじゃない。

 私は私のやり方で、乗り越えていくしかない。

 そっと、右肩に左手を置く。熱い。痛みは和らいでいる。それほど、負担もないだろう。

『力は光を生み、光は輝きを与え、輝きは牙を持つ』

 薄闇に包まれた部屋が、にわかに明るくなった。歯を食いしばる。右肩から痺れるような激痛が走る。

 言葉はまだ終わっていない。力の流れが途切れないように、紡ぐ。

『分かたれし力、輝ける者。浩々たる空隙より現れよ――汝の名は、ファランゾルン』

 ――光で自分の傷を治す? 

 ――もしものときだけにしておけ。あまり続けていると、おかしくなる。

 ――お前の心が、だ。言わせるな、阿呆。

 気が遠くなっていた。誰かの声を聞いた。

 ベッドに倒れていた。右腕をついて、身体を起こす。もう肩は痛まなかった。 

 確かにこんな無理を続ければ、心でも身体でも何かしら壊しそうではある。

(誰の声だったかしら) 

 フィアには、まだ思い出していないことのほうが多い。

 進まなければ。先は長いのだから。

-------------------
精一杯のヒロイン。がんばってほしい。
つづく。
 

拍手

PR
この記事にコメントする
名前
タイトル
文字色
E-mail
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
最新CM
[08/29 睦月レイ]
[12/24 風霜]
[12/22 中田]
ブログ内検索
カレンダー
06 2025/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
忍者ブログ [PR]