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うー、なんだかんだで進まない^^;
つづき更新!
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CHILDRENOFGROUND
第4章 千年の森
4:
「ここは……」
小さな部屋だ。彼女が寝ている寝台で、部屋の半分は埋まっている。いや、部屋ではない。
床と思ったのは、良く慣らされた土の地面だ。壁は、木肌を思わせるいびつな曲線を描いている。切り出された材木でつくられているわけではなさそうだ。
歪んだ壁には穴が空いていて、小さな棚が取り付けられている。そこには、乾燥させた薬草のようなものが載っている。
大きく開いた、出入り口と思しき穴からは、燦燦と日の光が注いでいる。
わけがわからない。とりあえず外に出てみようと、彼女は自分の体を覆っている毛布を引き剥がした。触れてみて気づく。これは、獣皮をはがして繋ぎ合わせたものだ。毛布ではない。
「エスニアダ?」
驚いて、再び入り口を見やると、小柄な人影があった。見慣れない風貌だ。髪は、日の光のような黄金色で、肌はよく日焼けしたように浅黒い。頬には、入れ墨だろう、赤い線が走っている。何より、耳がある位置に、獣のように先が尖って、金の体毛で覆われた、それこそ猫か何かのような耳が張り出している。
(これが、話に聞いていたレイーグか)
やはりというか、当然というか、相手の言葉は分からない。レイーグの子供は、どうも返事を待っているように見えた。仕方なく彼女は龍の力に頼ることにした。
「ここは?」
言葉が通じることに戸惑った様子もなく、子供は笑った。
「びっくりしたよ! 森の中で倒れてるんだもん。おっきなトカゲを連れてさ」
言いたいことはわかる。おそらく嵐龍のことだ。神聖な存在をトカゲ呼ばわりされたのは衝撃だったが、思えば自分はその龍の背にまたがってきたのだ。もはや何か言える立場ではない。
(それにしても、イドめ、連れてきたあとの面倒までは見てくれなんだか)
「トカゲがね、キミのこと助けてくれって言ってた」
これには驚きを隠せなかった。あの気難しい龍が頼みごとをしたのもそうだが、この子供と会話をしたということも信じがたい。彼女の最初の呼びかけに対しては、爪と牙で応えたというのに。
「それで、ここまで運んでくれたのか?」
子供らしい丸い目をさらに丸くして、小首を傾げる。
体を起こして、寝台に腰掛ける。体が軽い。今のうちに、本来の目的を果たさねば。
「ここは、レイーグの集落か?」
言うと、子供の顔が陰った。何事かと思うと、子供は踵を返して、外に出た。そのとき、彼の腰で一本の金色の尾が揺れるのが見えた。
追ってこいというのか。立ち上がって、部屋の外に出る。少し頭が重い。外の光がまぶしい。
くらんだ目をよく凝らす。まぶしいのは、空高くある日の光を映した湖面が一面輝いているからだ。大きな湖だ。そして、それ以上に大きな樹が、湖の中央にそびえている。
(これが、レイーグの聖樹か……)
見ただけで、巨大な力を宿していることがわかる。あたり一面の空気が濃い。
それで、彼女の病もおとなしいのか。傷の残る右肩に手を添える。
振り返ると、いままで居た部屋は、小屋ですらないことに気付く。
背後にあったのは、聖樹には及ばずとも、彼女が今まで見たことがないくらいの大樹だった。部屋と思ったのは、根にできたうろだ。何百、いや、何千年と生きているのだろう。生きては倒れ、倒れては芽生え、それを繰り返してできた空洞に、うまく住み着いているのだ。
あたりを見回して、違和感に気付く。ここは湖のほとりではあるが、とても集落とは思えない。他に人影もない。ひどく静かだ。
「おとなはいないよ。こどももいない。ほかには誰もいないんだ」
「みんな、森の外に行っちゃった。おれは帰ってきたんだ。かあさん、死んじゃったから。だから、かあさんが、森にかえりなさいって」
目の前の子供が、何の話をしているのかはわからない。
(……レイーグは滅んだのか?)
聖樹を捨て置いてまで、森を離れざるを得ない、何か重大な問題が起こった。そいうことだろうか。
「ねぇ、おにいちゃん、誰かに会いにきたの?」
レイーグの子供は振り返った。日の光を浴びた瞳は、紅玉のように輝いていた。
「……『おにいちゃん』?」
この世でたったひとりの、聖樹の守護者。
そして、かけがえのない安息の日々との出会いだった。
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想い出はいつもそばに
第4章 千年の森
4:
はっとして目を覚ます。乾いた草の匂いが鼻についた。
慌てて跳ね起きると、そこは見知らぬ部屋の中だった。
「ここは……」
小さな部屋だ。彼女が寝ている寝台で、部屋の半分は埋まっている。いや、部屋ではない。
床と思ったのは、良く慣らされた土の地面だ。壁は、木肌を思わせるいびつな曲線を描いている。切り出された材木でつくられているわけではなさそうだ。
歪んだ壁には穴が空いていて、小さな棚が取り付けられている。そこには、乾燥させた薬草のようなものが載っている。
大きく開いた、出入り口と思しき穴からは、燦燦と日の光が注いでいる。
わけがわからない。とりあえず外に出てみようと、彼女は自分の体を覆っている毛布を引き剥がした。触れてみて気づく。これは、獣皮をはがして繋ぎ合わせたものだ。毛布ではない。
「エスニアダ?」
驚いて、再び入り口を見やると、小柄な人影があった。見慣れない風貌だ。髪は、日の光のような黄金色で、肌はよく日焼けしたように浅黒い。頬には、入れ墨だろう、赤い線が走っている。何より、耳がある位置に、獣のように先が尖って、金の体毛で覆われた、それこそ猫か何かのような耳が張り出している。
(これが、話に聞いていたレイーグか)
やはりというか、当然というか、相手の言葉は分からない。レイーグの子供は、どうも返事を待っているように見えた。仕方なく彼女は龍の力に頼ることにした。
「ここは?」
言葉が通じることに戸惑った様子もなく、子供は笑った。
「びっくりしたよ! 森の中で倒れてるんだもん。おっきなトカゲを連れてさ」
「トカゲ……」
言いたいことはわかる。おそらく嵐龍のことだ。神聖な存在をトカゲ呼ばわりされたのは衝撃だったが、思えば自分はその龍の背にまたがってきたのだ。もはや何か言える立場ではない。
(それにしても、イドめ、連れてきたあとの面倒までは見てくれなんだか)
「トカゲがね、キミのこと助けてくれって言ってた」
これには驚きを隠せなかった。あの気難しい龍が頼みごとをしたのもそうだが、この子供と会話をしたということも信じがたい。彼女の最初の呼びかけに対しては、爪と牙で応えたというのに。
「それで、ここまで運んでくれたのか?」
「うん? だって、約束したもん」
子供らしい丸い目をさらに丸くして、小首を傾げる。
体を起こして、寝台に腰掛ける。体が軽い。今のうちに、本来の目的を果たさねば。
「ここは、レイーグの集落か?」
「しゅうらく?」
「…… ほかに誰か大人の人に会えないか? その、できれば長に会いたい」
言うと、子供の顔が陰った。何事かと思うと、子供は踵を返して、外に出た。そのとき、彼の腰で一本の金色の尾が揺れるのが見えた。
追ってこいというのか。立ち上がって、部屋の外に出る。少し頭が重い。外の光がまぶしい。
くらんだ目をよく凝らす。まぶしいのは、空高くある日の光を映した湖面が一面輝いているからだ。大きな湖だ。そして、それ以上に大きな樹が、湖の中央にそびえている。
(これが、レイーグの聖樹か……)
見ただけで、巨大な力を宿していることがわかる。あたり一面の空気が濃い。
それで、彼女の病もおとなしいのか。傷の残る右肩に手を添える。
振り返ると、いままで居た部屋は、小屋ですらないことに気付く。
背後にあったのは、聖樹には及ばずとも、彼女が今まで見たことがないくらいの大樹だった。部屋と思ったのは、根にできたうろだ。何百、いや、何千年と生きているのだろう。生きては倒れ、倒れては芽生え、それを繰り返してできた空洞に、うまく住み着いているのだ。
あたりを見回して、違和感に気付く。ここは湖のほとりではあるが、とても集落とは思えない。他に人影もない。ひどく静かだ。
「おとなはいないよ。こどももいない。ほかには誰もいないんだ」
彼女の心中を察したように、子供が言った。視線は、聖樹をむいている。
「みんな、森の外に行っちゃった。おれは帰ってきたんだ。かあさん、死んじゃったから。だから、かあさんが、森にかえりなさいって」
目の前の子供が、何の話をしているのかはわからない。
(……レイーグは滅んだのか?)
聖樹を捨て置いてまで、森を離れざるを得ない、何か重大な問題が起こった。そいうことだろうか。
「ねぇ、おにいちゃん、誰かに会いにきたの?」
レイーグの子供は振り返った。日の光を浴びた瞳は、紅玉のように輝いていた。
「……『おにいちゃん』?」
この世でたったひとりの、聖樹の守護者。
そして、かけがえのない安息の日々との出会いだった。
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想い出はいつもそばに
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