忍者ブログ
↓「はじめに」をごらんください (*´∀`*) ↓    
[78]  [77]  [76]  [73]  [72]  [71]  [70]  [69]  [68]  [67]  [66
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

キャラの性格が荒んでるのは、意図的な設定なはずだけど、
やっぱり自分の内面からにじみでてる感じなのは否めない。
おひさしぶりです、風霜です。


05/11投稿分のつづき。
まだ終わらないよー



CHILDREN OF GROUND
第3章 山上の宴唄
10: とおで ともに ねむりましょ


 
 5人を乗せた馬車は、夜の街道を賭け続けた。
 
 荷台に乗ると、フィアはばったりと眠り込んだ。気絶といったほうがいいのかもしれない。起きていても何かと煩いので、彼女には申し訳ないが返って好都合だった。付き添うようにエトとカシスは荷台に乗ったが、クノンは御者台に乗りこんだ。

「よく無事だったな?」

 咎めるように聴こえたかもしれない。エトはばつが悪そうな顔をみせた。

「アギルが助けてくれたの。あの人にも甲斐性があるのね」
「まぁ、そんなことだろうと思ったさ」

 カシスは肩をすくめた。あながち嘘でもない。まさかこんな形で落ち合うとは想像していなかったが、彼女は無事であるような気がしていた。

「あら、そう?」
「俺は、親父の話はアギルにしかしてない」

 あのとき、別れ際に、彼女は父の名を口にした。ということは、アギルが仕事の内容をエトに話したことになる。それほどあの情報屋と親密な関係にあるならば、何かしら策があるのだろう、と思っていた。

 エトは足を抱えるように腕を組むと、少し拗ねたような顔つきになった。

「ふぅん。もっと心配してくれてるかと思ったのに」
「したよ。でも、まぁ、しっかりしてるから、エトは」
「あらあら、どうもありがと」

 いいながら、エトは余り嬉しくなさそうだった。まずい予感がしてカシスは話題を逸らした。

「なんで親父のことを? アギルから聴き出したのか?」
「だって私、ちっちゃい頃にお世話になったもの」

 情報屋も、似たようなことを言っていたが、彼女が言うと全くニュアンスが違って聴こえるから不思議だ。

「世話に?」
「命を助けてもらったわ。アギルと一緒に」

 そういって、彼女は悪戯っぽく笑った。

「兄妹なの。私とアギルは」

 それは、意外な返答だった。恋仲か、そうでなくても仕事の相方なのかと思っていた。そういわれてみれば、彼女の目の色とアギルのそれはよく似ている。

「あんま、似てないな」
「ふふ、よく言われるわ」

 エトはしばらく面白がって笑っていたが、ふと静かになってカシスの顔を覗きこんだ。

「素敵な人だったわ。カシスのお父さん。よく似てる」
「そうか」

 そういわれても、実感もない。カシスは、顔も覚えていないのだから。返答に迷って、カシスは頬を掻いた。ガラガラと車輪の走る音がより一層やかましく響く。

「ね…… フィアは、どうしてこんなに傷だらけなの?」

 ためらいがちに、エトが切り出した。彼女はさっきからそれが訊きたかったのかもしれない。

 荷物を枕代わりに、横向きに寝かせている。マントに包まれた細い身体が、浅い呼吸を繰り返していた。僅かに覗く横顔は、苦しそうだ。応急手当はしたが、だいぶ失血しているのではないかと思う。出切れば安静にしてやりたい。が、領土を越えて安全な場所に出るまでは、しばらく望めない。彼女の体力が持つことを祈るばかりだ。

 力なく横たわる姿は、ただの娘だ。その彼女がどうして、傷だらけなのか。

「…… 俺にもよくわからん」

 目に見える傷は、彼女が言うに暴発でついた傷らしい。だがきっと、フィアの傷はそれだけじゃない。龍であるから。そうかもしれない。自分には関係のない過去の出来事に振り回されている。でも、それ以上に、彼女は深く傷ついている。

「ごめんなさいね……」
「え?」

 顔をあげる。心苦しそうに、視線を伏せたエトがいた。そういえば、逃げる助けをしてくれたのはエトだが、フィアを攫う手筈をしたのもエトだ。複雑な心中なのだろう。
 
「……謝られる義理はないわよ」

 カシスがかける言葉を探しているうちに、くぐもった呻き声が聞こえた。もぞり、とフィアが動き出す。

「いいのよ。これで…… ただ…… それだけのこと」
「おい、まだ寝てろよ」

 マント越しに、彼女の肩に触れようとする。が、力強い動きでその手を振り払われる。

「な、なんだよ?」
「うっさいわね! あんたはほんっとに――」

 頭を抱えながら、まるで噛み付くような勢いで、彼女は何かを言おうとした。だが、ふいに口を紡ぐと、虚空を見つめて静かになった。

「どうした?」
「……もういい」

 フィアは、起き上がった。体育座りのまま、自分の膝に寄りかかるようにしている。

「フィア、起きてて大丈夫なの?」
「ええ。大丈夫」

 エトの言葉に、フィアは少し微笑んで頷いた。気を使っているように見えた。
 
「なんか、俺にだけ態度悪くないか? 恩人だろ」
「じゃあ訊くけど、なんで私を斬らなかったの?」

 フィアが鋭い視線を向けてきた。剣呑な雰囲気を目の当たりにして、エトが落ち着かない様子でふたりを見比べていた。

「……またか……」

 カシスが肩をすくめた様子を、フィアは見咎めた。

「なに?」
「面倒くせぇんだよ、そういうの」
「面倒ってなによ」

 カシスは頭を掻いた。言ってやりたいのは山々だが、自分もフィアも疲れている。こういうときにくどくどと長話をしたところで不毛だ。

「もういいから寝ろよ、フィア。疲れてんだろ」
「なんでそう…… 気楽でいられるの?」

 カシスはフィアと目を合わせないように気をつけた。目が合えば、構わず殴ってしまいそうな気がした。

「お前はどうして自分のことしか見えないんだよ」
「なによ――」
「俺はな、そういう剣の使い方をしたくねぇんだよ」

 剣帯から外し、肩で抱えていた剣を揺らす。

 自分の力など、悪魔を狩るには及ばないし、悪魔のような狩人には追いつけない。それでも、剣の使い道は自分で決める。カシスが望んでいるのは、むやみに命を奪う剣じゃない。斬らなくて済むなら、それに越したことはない。

「私だって、こんなもののために誰かを死なせるなんてもう嫌よ」

 彼女は左腕を振った。腕を覆っていた黒布はほとんど破れて、下から龍の痣がのぞいている。

「だったらいいじゃねぇか、誰も死んでない」
「……死んだかもしれない」

 フィアが沈んだ声をだした。

「あの、人買いの連中。死んでたんじゃないの?」
「さあな。見てない」
「カシスだって、死んでたかもしれないのに」
「生きてるだろうが、この通り」

 確かに左肩は疼くが、見かけの割に傷は浅いし、もう血も止まっている。

 だが、彼女は訊いていない様子で、膝を抱えて俯いた。

「私なんかが生きてたところで、騒ぎにしかならないのよ。いっそ、殺してくれたほうが」

 フィアは不意に、言葉に詰まった。見やると、エトがフィアを胸に抱いていた。

「そんな、寂しいことを言わないで」

 エトの横顔は前髪に隠れて見えなかった。フィアの背中を抱きながら、右手で優しく彼女の髪を梳っている。

「あの館から逃げ出すために、フィアを利用したこと、謝るわ。でも感謝してる。あなたが、こんな山奥まで来てくれたから、私はまた自由になれた。あなたが」

 エトの声は決して大きくはなかったが、不思議と車輪の回る音に掻き消されず、よく響いた。

「あなたが生きていてくれたから、あなたが無事に逃げてくれたから、私も笑って生きなおせる」
「私は何もしていない」

 フィアがきっぱりと告げた。エトは優しくかぶりを振った。

「あなたにとってはそうかも。でも私にとっては、とても大切なことをあなたはしてくれたわ。誰かを傷つけてまで幸せになるなんて、辛いもの。だから、ね? 死んじゃったほうが良かったとか、そんなことないのよ」

 彼女は体を離して、フィアの顔を覗きこんだ。

「ありがとう、フィア」

 不思議そうに、フィアはエトの顔を覗きこんでいた。

 カシスは幌の外に目を向けた。

 中天の雲間からにじむ月が、浩々と輝いていた。






-----------------------------------
データが吹っ飛んだ都合、あれこれ修繕してるうちに時間が経ちました。
今度こそ! 今度こそ最後!

拍手

PR
この記事にコメントする
名前
タイトル
文字色
E-mail
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
最新CM
[08/29 睦月レイ]
[12/24 風霜]
[12/22 中田]
ブログ内検索
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
忍者ブログ [PR]