↓「はじめに」をごらんください (*´∀`*) ↓
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
みなさんGWはどーでしたか?
私は家事手伝いの日々でした。
小説書こうと思ってたのに、やる暇ゼロでした。
04/29投稿分のつづき
CHILDREN OF GROUND
第3章 山上の宴唄
9:
:
重い沈黙を破ったのは、カシスだった。
クノンは、もう少しカシスはうなだれているかと思った。予想とは裏腹に、暗闇の中を、さっさと灯りを目指して進んでいく。クノンは早足でその後ろを追った。天井が低いせいだろうが、背中を屈めて歩くカシスが、酷く落ち込んでいるようにも見えた。
「カシス…… 大丈夫?」
訊かなければよかったかな、と口にしてしまったことを後悔する。カシスはわかりやすくため息をつくと、頭を掻いた。言葉に続きはなかった。
歩いてみると、通路はそれほど長くない。突き当たりを折れると、大人が数人は入れそうな空間があった。
その床の中央に、正方形の切込みが入っている。
おそらく、下に通じているのだろう。
「なぁ、クノン」
聴き慣れない言葉だった。カシスは頷いて続けた。
「始祖は、“アウトレギアス”とか“悪魔狩り”とか呼ばれていたらしい。魔物でも人でも、とにかく斬って、斬って、斬りまくったとか」
話の内容もさることながら、カシスが珍しく饒舌なのに驚いていた。
「俺はたまに、アウトレギアスが何を思って剣を振っていたのか考えるんだが」
カシスが剣に触れた。剣帯の金具が、鈴のような音を立てる。
カシスは剣を鞘ごと剣帯からはずした。
「剣は、剣だ。相手が居れば斬る。迷えば斬られる。それだけで、他に考えることはない。俺もそうだ」
外した剣を二度、三度叩きつけると、床は外れた。思ったとおり、床下には部屋があるようだ。
カシスは剣を担ぐと、クノンの顔をみて、ふと微笑んだ。
寂しいような、満足しているような、不思議な表情だった。
「だから、後は任せた」
カシスはそう言うと、床下に飛び込んでいった。
剣を抜けるよう、構えをとったが、誰もいない。部屋は薄闇で覆われていた。天井の高い位置に、小窓があるが、それ以外に灯りもない。
警戒して目を凝らすと、既に何者かに荒らされた様子だった。椅子や机がなぎ倒され、よく見ればその下に何人か倒れている。眠っているのか、動き出す様子がない。
「何しにきたの?」
聴き落としそうな小さな声が聞こえた。反対側に頭をめぐらすと、部屋の壁際、もっとも暗い暗がりにうずくまっている影がある。
「フィアか?」
近づこうとした瞬間、鋭い静止の声が飛んできた。
その瞬間、部屋の隅で何かがはじけた。たとえるなら、平たい板で水面を打ちつけたような、そんな音が響いた。壁が揺れ、足元にまで伝わるその振動が、衝撃の強さを物語っていた。
「制御できない…… 力が暴走しているの…… 近づくと、巻き添えになる。そこの連中みたいに。さっさと失せなさい」
構わずカシスは足を踏み出した。フィアに詰め寄る。
「来ないで…… 死にたいの?」
ぱん、と左の耳元で音がはじけた。
衝撃波みたいなものだろう。鋭い痛みが肩に刺さる。
視界の端に赤いしぶきが散った。左耳に耳鳴りが残る。
不意打ちに体が流されたが、足は前に進んだ。
耳鳴りを掻き分けて、少女の声が脳に滑り込んでくる。
「それとも――」
「――私を殺してくれるの?」
疲れきった顔に張り付いた暗い目が、異様な輝きを帯びてカシスを捉えていた。
「立て」
仏頂面だった。いつもの、不機嫌そうな顔。
(ああ、そうか……)
御守りをくれたときの彼の顔を、見ていないわけではなかった。
こんな、興味のなさそうな顔で私を見下ろしていた。
「くっだらねぇことネチネチ考えてんじゃねぇよ、馬鹿が。これ、絶対鼓膜イってるぞ。責任取れよ、おい」
親切でもなく、同情でもなく、彼は何食わぬ顔で手を差し出す。
あの時も、そう。
本当は荷物を取りに宿に戻っただけで、もう二人には絶対顔を合わせないで去ろうと思っていたのに、あなた達二人はもう宿の前で待っていて、本当に何もなかったかのように、クノンは色々気遣ってくれたけど、この男は当たり前のことのように『行くぞ』としか言わなかった。
そうか。
だから“優しい”のね、あなたは。
「立てコラ。手間取らせんな、面倒くせぇ」
知っているんでしょう。何が酷くて優しくないのか、わかっているんでしょう、その高い目線から。
だから、その逆が平気な顔で出来るんでしょう?
(レオは、優しかった)
言葉にならない想いが募る。
それが“優しい”のなら、あなたは私を殺してくれるっていうの?
あなたに、そんな裏返しの“優しさ”で、狂った私が止められるの?
体が熱い。体の痛みを超える激しい昂ぶりが込み上げてくる。
胸を切り裂けば、この身の内にわだかまる不快な衝動を取り出せるのだろうか。
そうしたら、私のこの気持ちは、苦しみは、もっと楽になるのだろうか。
ぱんっ、とまた空気が弾けた。
体が跳ねあがるような至近距離。同時に両手足が自由になる。
起き上がり様にフィアは両手を掲げた。
血だらけの手の内に、金属の重みが加わる。明かりを受けて、白刃が薄闇の中を閃いた。
(そう、きっと、あなたなら……)
巡る思考のなかで、フィアは、ふっと体が軽くなったような気がした。
次の瞬間、まるで申し合わせたように、同時にふたりが動いた。
カシスの腰が僅かに下がる。
フィアの緑の髪が、柔らかに宙を踊る。
鞘から引き抜かれた刃が、薄闇に輝く。
二条の煌き。
クノンに見えたのは、それだけだった。
何が起こったのか、はっきりとはわからない。ただ、フィアの脇を滑るようにカシスが通り過ぎた後、彼女はそのまま床に倒れた。
からん、と彼女の剣が床を跳ね、そして虚空に消えた。
一瞬の沈黙のあと、カシスが納刀する音が涼しげに響いた。
フィアは微動だにしなかった。
「フィアっ」
クノンは駆け寄った。抱き起こすと、彼女は意識を失っているようだ。苦悶の表情を浮かべたまま、起き上がる気配もない。
「はいはい。ほら、いくぞ」
カシスは、さっさと部屋を横切っている。フィアを抱えたまま、クノンは喚いた。
「ちょ、カシス!」
「なんだよ、俺は左が言うこときかねぇんだから、お前がそいつ担いでこいよ」
「え? ……あ、いや、そういうんじゃなくて!」
彼の左肩は、たしかに血で汚れていたが、思わずクノンは批難の声をあげた。
何に対してか、自分でもわからなかったが、カシスの態度は見過ごせない、そう思った。
「なんで…… 何があったの?」
どうしてふたりが斬り合ったのか、クノンは見ていない。
その肩の上で、カシスが少し笑っているように見えた。
なんでこんな時に笑っているのか、クノンには全く理解できなかった。
----------------------------------------
鬼だな、カシス。
んで独り満足。まぁ、そういうヘタレなところがカシスだなぁって感じ。つづく。いや、つづきますよ?
第3章 山上の宴唄
9:
:
「行くか」
重い沈黙を破ったのは、カシスだった。
クノンは、もう少しカシスはうなだれているかと思った。予想とは裏腹に、暗闇の中を、さっさと灯りを目指して進んでいく。クノンは早足でその後ろを追った。天井が低いせいだろうが、背中を屈めて歩くカシスが、酷く落ち込んでいるようにも見えた。
「カシス…… 大丈夫?」
訊かなければよかったかな、と口にしてしまったことを後悔する。カシスはわかりやすくため息をつくと、頭を掻いた。言葉に続きはなかった。
歩いてみると、通路はそれほど長くない。突き当たりを折れると、大人が数人は入れそうな空間があった。
その床の中央に、正方形の切込みが入っている。
おそらく、下に通じているのだろう。
「なぁ、クノン」
「な、なに?」
唐突にカシスが切り出した。
唐突にカシスが切り出した。
「俺が教わった剣は、破邪の剣っていってな」
「破邪?」
聴き慣れない言葉だった。カシスは頷いて続けた。
「始祖は、“アウトレギアス”とか“悪魔狩り”とか呼ばれていたらしい。魔物でも人でも、とにかく斬って、斬って、斬りまくったとか」
「血なまぐさい話だなぁ」
話の内容もさることながら、カシスが珍しく饒舌なのに驚いていた。
「俺はたまに、アウトレギアスが何を思って剣を振っていたのか考えるんだが」
「うん」
「結局、何も考えちゃいなかったんだろうと思う」
「え?」
カシスが剣に触れた。剣帯の金具が、鈴のような音を立てる。
カシスは剣を鞘ごと剣帯からはずした。
「剣は、剣だ。相手が居れば斬る。迷えば斬られる。それだけで、他に考えることはない。俺もそうだ」
外した剣を二度、三度叩きつけると、床は外れた。思ったとおり、床下には部屋があるようだ。
カシスは剣を担ぐと、クノンの顔をみて、ふと微笑んだ。
寂しいような、満足しているような、不思議な表情だった。
「だから、後は任せた」
カシスはそう言うと、床下に飛び込んでいった。
* * *
だん、と重い音を立てて、カシスは着地した。
剣を抜けるよう、構えをとったが、誰もいない。部屋は薄闇で覆われていた。天井の高い位置に、小窓があるが、それ以外に灯りもない。
警戒して目を凝らすと、既に何者かに荒らされた様子だった。椅子や机がなぎ倒され、よく見ればその下に何人か倒れている。眠っているのか、動き出す様子がない。
「何しにきたの?」
聴き落としそうな小さな声が聞こえた。反対側に頭をめぐらすと、部屋の壁際、もっとも暗い暗がりにうずくまっている影がある。
「フィアか?」
「来るなっ!」
近づこうとした瞬間、鋭い静止の声が飛んできた。
その瞬間、部屋の隅で何かがはじけた。たとえるなら、平たい板で水面を打ちつけたような、そんな音が響いた。壁が揺れ、足元にまで伝わるその振動が、衝撃の強さを物語っていた。
「制御できない…… 力が暴走しているの…… 近づくと、巻き添えになる。そこの連中みたいに。さっさと失せなさい」
彼女は平静を保っているようだが、声が力なく震えている。
構わずカシスは足を踏み出した。フィアに詰め寄る。
「来ないで…… 死にたいの?」
ぱん、と左の耳元で音がはじけた。
衝撃波みたいなものだろう。鋭い痛みが肩に刺さる。
視界の端に赤いしぶきが散った。左耳に耳鳴りが残る。
不意打ちに体が流されたが、足は前に進んだ。
耳鳴りを掻き分けて、少女の声が脳に滑り込んでくる。
「それとも――」
カシスは足を止めた。もう彼女は目の前だった。よく見れば、全身傷だらけで、床に赤色が散っている。
「――私を殺してくれるの?」
疲れきった顔に張り付いた暗い目が、異様な輝きを帯びてカシスを捉えていた。
* * *
肩口の傷などまるでないかのような仕草で、彼は目の前に立っていた。
「立て」
仏頂面だった。いつもの、不機嫌そうな顔。
(ああ、そうか……)
御守りをくれたときの彼の顔を、見ていないわけではなかった。
こんな、興味のなさそうな顔で私を見下ろしていた。
「くっだらねぇことネチネチ考えてんじゃねぇよ、馬鹿が。これ、絶対鼓膜イってるぞ。責任取れよ、おい」
親切でもなく、同情でもなく、彼は何食わぬ顔で手を差し出す。
あの時も、そう。
本当は荷物を取りに宿に戻っただけで、もう二人には絶対顔を合わせないで去ろうと思っていたのに、あなた達二人はもう宿の前で待っていて、本当に何もなかったかのように、クノンは色々気遣ってくれたけど、この男は当たり前のことのように『行くぞ』としか言わなかった。
そうか。
だから“優しい”のね、あなたは。
「立てコラ。手間取らせんな、面倒くせぇ」
知っているんでしょう。何が酷くて優しくないのか、わかっているんでしょう、その高い目線から。
だから、その逆が平気な顔で出来るんでしょう?
(レオは、優しかった)
言葉にならない想いが募る。
それが“優しい”のなら、あなたは私を殺してくれるっていうの?
あなたに、そんな裏返しの“優しさ”で、狂った私が止められるの?
体が熱い。体の痛みを超える激しい昂ぶりが込み上げてくる。
胸を切り裂けば、この身の内にわだかまる不快な衝動を取り出せるのだろうか。
そうしたら、私のこの気持ちは、苦しみは、もっと楽になるのだろうか。
ぱんっ、とまた空気が弾けた。
体が跳ねあがるような至近距離。同時に両手足が自由になる。
起き上がり様にフィアは両手を掲げた。
血だらけの手の内に、金属の重みが加わる。明かりを受けて、白刃が薄闇の中を閃いた。
(そう、きっと、あなたなら……)
巡る思考のなかで、フィアは、ふっと体が軽くなったような気がした。
* * *
クノンがやっと部屋に降り立ったとき、見えたのはカシスの背と、その先にうずくまる見覚えのある少女だった。
次の瞬間、まるで申し合わせたように、同時にふたりが動いた。
カシスの腰が僅かに下がる。
フィアの緑の髪が、柔らかに宙を踊る。
鞘から引き抜かれた刃が、薄闇に輝く。
二条の煌き。
クノンに見えたのは、それだけだった。
何が起こったのか、はっきりとはわからない。ただ、フィアの脇を滑るようにカシスが通り過ぎた後、彼女はそのまま床に倒れた。
からん、と彼女の剣が床を跳ね、そして虚空に消えた。
一瞬の沈黙のあと、カシスが納刀する音が涼しげに響いた。
フィアは微動だにしなかった。
「フィアっ」
クノンは駆け寄った。抱き起こすと、彼女は意識を失っているようだ。苦悶の表情を浮かべたまま、起き上がる気配もない。
「はいはい。ほら、いくぞ」
カシスは、さっさと部屋を横切っている。フィアを抱えたまま、クノンは喚いた。
「ちょ、カシス!」
「なんだよ、俺は左が言うこときかねぇんだから、お前がそいつ担いでこいよ」
「え? ……あ、いや、そういうんじゃなくて!」
彼の左肩は、たしかに血で汚れていたが、思わずクノンは批難の声をあげた。
何に対してか、自分でもわからなかったが、カシスの態度は見過ごせない、そう思った。
「なんで…… 何があったの?」
どうしてふたりが斬り合ったのか、クノンは見ていない。
カシスは肩越しに振り返った。
「あとでな。今は、エトが稼いだ時間を無駄にしたくない」
「あとでな。今は、エトが稼いだ時間を無駄にしたくない」
その肩の上で、カシスが少し笑っているように見えた。
なんでこんな時に笑っているのか、クノンには全く理解できなかった。
----------------------------------------
鬼だな、カシス。
んで独り満足。まぁ、そういうヘタレなところがカシスだなぁって感じ。つづく。いや、つづきますよ?
PR
この記事にコメントする
カテゴリー
最新記事
(11/20)
(07/21)
(10/25)
(08/28)
(08/14)
ブログ内検索