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みなさんGWはどーでしたか?
私は家事手伝いの日々でした。
小説書こうと思ってたのに、やる暇ゼロでした。

04/29投稿分のつづき


CHILDREN OF GROUND
第3章 山上の宴唄
9:



「行くか」

 重い沈黙を破ったのは、カシスだった。

 クノンは、もう少しカシスはうなだれているかと思った。予想とは裏腹に、暗闇の中を、さっさと灯りを目指して進んでいく。クノンは早足でその後ろを追った。天井が低いせいだろうが、背中を屈めて歩くカシスが、酷く落ち込んでいるようにも見えた。

「カシス…… 大丈夫?」

 訊かなければよかったかな、と口にしてしまったことを後悔する。カシスはわかりやすくため息をつくと、頭を掻いた。言葉に続きはなかった。

 歩いてみると、通路はそれほど長くない。突き当たりを折れると、大人が数人は入れそうな空間があった。
 
 その床の中央に、正方形の切込みが入っている。
 
 おそらく、下に通じているのだろう。

「なぁ、クノン」
「な、なに?」

 唐突にカシスが切り出した。
 
「俺が教わった剣は、破邪の剣っていってな」
「破邪?」

 聴き慣れない言葉だった。カシスは頷いて続けた。

「始祖は、“アウトレギアス”とか“悪魔狩り”とか呼ばれていたらしい。魔物でも人でも、とにかく斬って、斬って、斬りまくったとか」
「血なまぐさい話だなぁ」
 
 話の内容もさることながら、カシスが珍しく饒舌なのに驚いていた。

「俺はたまに、アウトレギアスが何を思って剣を振っていたのか考えるんだが」
「うん」
「結局、何も考えちゃいなかったんだろうと思う」
「え?」

 カシスが剣に触れた。剣帯の金具が、鈴のような音を立てる。

 カシスは剣を鞘ごと剣帯からはずした。

「剣は、剣だ。相手が居れば斬る。迷えば斬られる。それだけで、他に考えることはない。俺もそうだ」

 外した剣を二度、三度叩きつけると、床は外れた。思ったとおり、床下には部屋があるようだ。

 カシスは剣を担ぐと、クノンの顔をみて、ふと微笑んだ。

 寂しいような、満足しているような、不思議な表情だった。

「だから、後は任せた」

 カシスはそう言うと、床下に飛び込んでいった。
 
     * * * 
 
 だん、と重い音を立てて、カシスは着地した。

 剣を抜けるよう、構えをとったが、誰もいない。部屋は薄闇で覆われていた。天井の高い位置に、小窓があるが、それ以外に灯りもない。

 警戒して目を凝らすと、既に何者かに荒らされた様子だった。椅子や机がなぎ倒され、よく見ればその下に何人か倒れている。眠っているのか、動き出す様子がない。

「何しにきたの?」

 聴き落としそうな小さな声が聞こえた。反対側に頭をめぐらすと、部屋の壁際、もっとも暗い暗がりにうずくまっている影がある。

「フィアか?」
「来るなっ!」

 近づこうとした瞬間、鋭い静止の声が飛んできた。

 その瞬間、部屋の隅で何かがはじけた。たとえるなら、平たい板で水面を打ちつけたような、そんな音が響いた。壁が揺れ、足元にまで伝わるその振動が、衝撃の強さを物語っていた。

「制御できない…… 力が暴走しているの…… 近づくと、巻き添えになる。そこの連中みたいに。さっさと失せなさい」
 
 彼女は平静を保っているようだが、声が力なく震えている。
 
 構わずカシスは足を踏み出した。フィアに詰め寄る。

「来ないで…… 死にたいの?」

 ぱん、と左の耳元で音がはじけた。

 衝撃波みたいなものだろう。鋭い痛みが肩に刺さる。

 視界の端に赤いしぶきが散った。左耳に耳鳴りが残る。

 不意打ちに体が流されたが、足は前に進んだ。

 耳鳴りを掻き分けて、少女の声が脳に滑り込んでくる。

「それとも――」
 
 カシスは足を止めた。もう彼女は目の前だった。よく見れば、全身傷だらけで、床に赤色が散っている。

「――私を殺してくれるの?」

 疲れきった顔に張り付いた暗い目が、異様な輝きを帯びてカシスを捉えていた。
 
     * * * 
 
 肩口の傷などまるでないかのような仕草で、彼は目の前に立っていた。

「立て」

 仏頂面だった。いつもの、不機嫌そうな顔。

(ああ、そうか……)

 御守りをくれたときの彼の顔を、見ていないわけではなかった。

 こんな、興味のなさそうな顔で私を見下ろしていた。

「くっだらねぇことネチネチ考えてんじゃねぇよ、馬鹿が。これ、絶対鼓膜イってるぞ。責任取れよ、おい」

 親切でもなく、同情でもなく、彼は何食わぬ顔で手を差し出す。

 あの時も、そう。

 本当は荷物を取りに宿に戻っただけで、もう二人には絶対顔を合わせないで去ろうと思っていたのに、あなた達二人はもう宿の前で待っていて、本当に何もなかったかのように、クノンは色々気遣ってくれたけど、この男は当たり前のことのように『行くぞ』としか言わなかった。

 そうか。

 だから“優しい”のね、あなたは。

「立てコラ。手間取らせんな、面倒くせぇ」

 知っているんでしょう。何が酷くて優しくないのか、わかっているんでしょう、その高い目線から。

 だから、その逆が平気な顔で出来るんでしょう?

(レオは、優しかった)

 言葉にならない想いが募る。

 それが“優しい”のなら、あなたは私を殺してくれるっていうの?

 あなたに、そんな裏返しの“優しさ”で、狂った私が止められるの?

 体が熱い。体の痛みを超える激しい昂ぶりが込み上げてくる。

 胸を切り裂けば、この身の内にわだかまる不快な衝動を取り出せるのだろうか。

 そうしたら、私のこの気持ちは、苦しみは、もっと楽になるのだろうか。

 ぱんっ、とまた空気が弾けた。

 体が跳ねあがるような至近距離。同時に両手足が自由になる。

 起き上がり様にフィアは両手を掲げた。

 血だらけの手の内に、金属の重みが加わる。明かりを受けて、白刃が薄闇の中を閃いた。

(そう、きっと、あなたなら……)

 巡る思考のなかで、フィアは、ふっと体が軽くなったような気がした。
 
     * * * 
 
 クノンがやっと部屋に降り立ったとき、見えたのはカシスの背と、その先にうずくまる見覚えのある少女だった。

 次の瞬間、まるで申し合わせたように、同時にふたりが動いた。

 カシスの腰が僅かに下がる。

 フィアの緑の髪が、柔らかに宙を踊る。

 鞘から引き抜かれた刃が、薄闇に輝く。

 二条の煌き。

 クノンに見えたのは、それだけだった。

 何が起こったのか、はっきりとはわからない。ただ、フィアの脇を滑るようにカシスが通り過ぎた後、彼女はそのまま床に倒れた。

 からん、と彼女の剣が床を跳ね、そして虚空に消えた。

 一瞬の沈黙のあと、カシスが納刀する音が涼しげに響いた。

 フィアは微動だにしなかった。

「フィアっ」

 クノンは駆け寄った。抱き起こすと、彼女は意識を失っているようだ。苦悶の表情を浮かべたまま、起き上がる気配もない。

「はいはい。ほら、いくぞ」

 カシスは、さっさと部屋を横切っている。フィアを抱えたまま、クノンは喚いた。

「ちょ、カシス!」
「なんだよ、俺は左が言うこときかねぇんだから、お前がそいつ担いでこいよ」
「え? ……あ、いや、そういうんじゃなくて!」

 彼の左肩は、たしかに血で汚れていたが、思わずクノンは批難の声をあげた。

 何に対してか、自分でもわからなかったが、カシスの態度は見過ごせない、そう思った。

「なんで…… 何があったの?」

 どうしてふたりが斬り合ったのか、クノンは見ていない。
 
 カシスは肩越しに振り返った。

「あとでな。今は、エトが稼いだ時間を無駄にしたくない」

 その肩の上で、カシスが少し笑っているように見えた。

 なんでこんな時に笑っているのか、クノンには全く理解できなかった。



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鬼だな、カシス。
んで独り満足。まぁ、そういうヘタレなところがカシスだなぁって感じ。つづく。いや、つづきますよ?

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