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なぜこの話しがこんなに長引いているのやら・・・
04/13投稿分のつづき
CHILDREN OF GROUND
第3章 山上の宴唄
9:ここのつ このよでさいごのおうせです
あいつは、笑っていたのだろうか。それとも……
(こんなことはもう嫌なのに……)
目が重い。もはや上体を起こしているのも苦しくて、フィアは倒れた。濡れた感覚があった。刻まれた身体から流れ出た血のせいか。
息も上手くできない。
龍族が持つ力というのは、《はじまりの竜》の眷属である証だ。証は、その身に流れる血に刻まれている。だから、龍の力が尽きるというのは、血を失うのと同じ。力を失うことは、龍族にとって自らの存在を失うことに等しく、極めて致命的だ。
(こんな力のせいで)
傷つけ、破壊するだけの力。私は、こんな力が欲しいなんて思ったことはないのに。私はただ穏やかに暮らしたかった。千年前の悲劇なんて知りたくもなかった。
それなのに、私の中の龍の力が、こうして目の前の誰かの命を奪う。
私は悪くない、と心は叫んでいる。どうして私がこんな業を背負わなければならないの、と自分の不運を呪う。
だが一方で、心の片隅で、私がもっと賢く強かったら、この力も使いこなせて、こんな酷いことにはならなかったはずだ、と自分を責めている。
(いっそ、このまま――)
こんなことの繰り返しなら、もう終わりにしてしまいたい。
レオは死んでしまった。イルミナも消えてしまった。そう、大切なものは失われてしまった。
誰かを傷つけるだけの私が生き永らえて、何になるのか。
「捨てるならばその輝き、私が貰い受けよう」
呼ばれた気がして、彼女は目を開けた。すぐ近くに何かがいる。
黒いコートの裾が、俯いた視界の端に移った。
できるだけ考えを悟られないように俯いたまま、フィアは、剣を探した。
いつものように、手の中に鉄の重みは現れない。すべて幻で、自分に龍の力などなかったかのように、まったく何の感覚も湧かなかった。
諦めて、フィアは言葉を紡いだ。言霊ではない、ただ普通の言葉を。
「……イルミナをどうしたの?」
男が笑った気配がした。嘲笑のような、苦笑のような。小さな息遣いだった。
「キミにその光は眩しすぎるようだ」
欲しくて手に入れた力じゃない。
「奪えばいいじゃない。こんなもの」
そう、奪えるはずだ。この男なら。
灯りの消えた、暗い部屋。向かいの壁に、広がっていたのは、全く動かない男達と、吹き飛ばされたテーブルや椅子とが折り重なって倒れている光景だった。
「…………」
あれほど頑なに拒んでいた光景も、一度視界に収めてしまうと、不思議と怯える気持ちも湧かない。怒りも、嘆きもなかった。落ち着いていたというより、激情を顕にするような気力も体力も尽きていた。
独り、応える者も居らず、無力に震えていることしかできない。
自分を縛める縄を自力で解くことさえままならない。
それが悲しいとか、不幸だと思うこともなかった。ただ、どうしてここに私がいるのか、理解できない。それだけだった。
ああ、本当に辛いというのは、こういうことなのか――
フィアは壁に背を預けたまま、誰かを下敷きにしていることで均衡を保ったまま複雑な角度で傾いている椅子に魅入っていた。
-------------------------
壊れかけ。
つづく。
第3章 山上の宴唄
9:ここのつ このよでさいごのおうせです
赤い実のお守り。黒髪の青年から渡された物。
そういえば、あの男はどんな顔をしてこれを手渡したのだったか。
不思議なことに思い出せない。視界に揺れる御守りのことはよく覚えているのに。
彼の顔を見たような気がするが、きっとそれほど注意深く観察はしていなかったのだろう。
あいつは、笑っていたのだろうか。それとも……
* * *
苦しい。
壁に背を預けたまま、フィアはただ床を見つめていた。
顔を上げるのが怖かった。大きな衝撃波とともに、部屋中の物が壁や天井に叩きつけられた。同じように弾き飛ばされた男達が、どうなったのか、フィアは見ていなかった。3人もいるはずなのに、先程から誰一人動く気配を見せない。
罵声でも、怒声でも、殺意でも、なんでもいい、起き出してほしいのに、部屋はとても静かだった。
顔を上げるのが怖かった。大きな衝撃波とともに、部屋中の物が壁や天井に叩きつけられた。同じように弾き飛ばされた男達が、どうなったのか、フィアは見ていなかった。3人もいるはずなのに、先程から誰一人動く気配を見せない。
罵声でも、怒声でも、殺意でも、なんでもいい、起き出してほしいのに、部屋はとても静かだった。
(こんなことはもう嫌なのに……)
目が重い。もはや上体を起こしているのも苦しくて、フィアは倒れた。濡れた感覚があった。刻まれた身体から流れ出た血のせいか。
息も上手くできない。
龍族が持つ力というのは、《はじまりの竜》の眷属である証だ。証は、その身に流れる血に刻まれている。だから、龍の力が尽きるというのは、血を失うのと同じ。力を失うことは、龍族にとって自らの存在を失うことに等しく、極めて致命的だ。
(こんな力のせいで)
傷つけ、破壊するだけの力。私は、こんな力が欲しいなんて思ったことはないのに。私はただ穏やかに暮らしたかった。千年前の悲劇なんて知りたくもなかった。
それなのに、私の中の龍の力が、こうして目の前の誰かの命を奪う。
私は悪くない、と心は叫んでいる。どうして私がこんな業を背負わなければならないの、と自分の不運を呪う。
だが一方で、心の片隅で、私がもっと賢く強かったら、この力も使いこなせて、こんな酷いことにはならなかったはずだ、と自分を責めている。
(いっそ、このまま――)
こんなことの繰り返しなら、もう終わりにしてしまいたい。
レオは死んでしまった。イルミナも消えてしまった。そう、大切なものは失われてしまった。
誰かを傷つけるだけの私が生き永らえて、何になるのか。
「捨てるならばその輝き、私が貰い受けよう」
呼ばれた気がして、彼女は目を開けた。すぐ近くに何かがいる。
黒いコートの裾が、俯いた視界の端に移った。
できるだけ考えを悟られないように俯いたまま、フィアは、剣を探した。
いつものように、手の中に鉄の重みは現れない。すべて幻で、自分に龍の力などなかったかのように、まったく何の感覚も湧かなかった。
諦めて、フィアは言葉を紡いだ。言霊ではない、ただ普通の言葉を。
「……イルミナをどうしたの?」
「キミがよく知っているはずだよ、ピラウス」
「殺したの?」
男が笑った気配がした。嘲笑のような、苦笑のような。小さな息遣いだった。
「キミにその光は眩しすぎるようだ」
「だったら、何?」
欲しくて手に入れた力じゃない。
「奪えばいいじゃない。こんなもの」
そう、奪えるはずだ。この男なら。
堪えきれず顔をあげる。しかし、彼女の目の前には、誰もいなかった。
灯りの消えた、暗い部屋。向かいの壁に、広がっていたのは、全く動かない男達と、吹き飛ばされたテーブルや椅子とが折り重なって倒れている光景だった。
「…………」
あれほど頑なに拒んでいた光景も、一度視界に収めてしまうと、不思議と怯える気持ちも湧かない。怒りも、嘆きもなかった。落ち着いていたというより、激情を顕にするような気力も体力も尽きていた。
独り、応える者も居らず、無力に震えていることしかできない。
自分を縛める縄を自力で解くことさえままならない。
それが悲しいとか、不幸だと思うこともなかった。ただ、どうしてここに私がいるのか、理解できない。それだけだった。
ああ、本当に辛いというのは、こういうことなのか――
フィアは壁に背を預けたまま、誰かを下敷きにしていることで均衡を保ったまま複雑な角度で傾いている椅子に魅入っていた。
-------------------------
壊れかけ。
つづく。
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