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CHILDREN OF GROUND:4-1

第1章: 迷い人



 この地域は、表面積の7割は森林で覆われている。《森の島》と呼ばれるほどだ。

 ボスク地方一帯は、8割は森林で覆われており(その一部、南西の一帯が《沈黙の森》である)、山岳地帯を挟んでまたさらに北西にも人が入り込めないほど、古い森が広がっている。つまり、西と南はほとんど森なのだ。東に抜けるとオルトワ地方があり、やはり大部分を森林が占めているが、海沿いにささやかながら平地が広がっており、その平地を中心に商業が栄えている。北に行くほど平野が増え、肥沃な大地を有したスヴァヌ地方は、この大陸の台所と呼ばれるぐらい農作物が豊富に採れる。

 カシスたちは、おそらくボスクを抜け、さらに北の森に入った。領域を越えたところで、アギルとエトとは分かれた。ふたりは秘密の隠れ家に身を潜めるつもりらしく、カシス達とは目的も方向も異なるので、降ろしてもらうことにした。それに、身を潜めるつもりなら、大所帯ではままならないだろう。フィアは、だいぶエトと打ち解けたようで、名残惜しそうに見えた。

 というわけで、カシスとクノン、そしてフィアの3人は、森の中を徒歩で抜けることになった。とはいえ森の奥に入るわけではないし、馬車を使わない旅人がよう利用するルートというものがあり(アギルが餞別に詳しい地図をくれた)、それを辿ればいいだけだった。

 そのはずだった。

「なんかさぁ…… お前と入る森ってロクなことないよな」
「し、失礼ね! どういう意味よ!」

 背の高い木々が頭上を覆う。いつぞやの《沈黙の森》のような重苦しさはない。いたって通常の、カシスの故郷の山間を思い出させるような、そんな森だ。記憶にある故郷の森と決定的に違う点があれとすれば、少なくともカシスは森の中で迷子になったことはない。

 フィアに方向を見てもらったのが間違いなのか、彼女の道案内だと、現れるはずの目印はなく、草木の密度もどんどん濃くなっていき、とても人が頻繁に足を踏み入れているとは思えない、原生地帯に突入してしまった。カシスがもたれかかっている巨大な倒木に、さらに木々が根付いて、立体パズルのようになっていた。

「なんでこんな原生林地帯に迷いこむんだよ! 天性か!? 真性の馬鹿か!?」
「私のせいだって言いたいの!?」
「先頭歩いてたのはお前だろうがっ!!」

 びし、と指を突きつけると、彼女は多少ひるんだ。

 そこに、冷静な少年の声が割って入った。

「駄目だよ、カシス。女性にひどい口をきくのは……」
「クノン!」

 ぱっ、とフィアが青い目を輝かせる。長い緑の髪が軽やかに揺れた。

 魔道師の少年は、知性的な光を宿した金の瞳を細め、微笑みながら言った。

「道に迷うなんて、まぁ、たまにはね、あるんじゃないかな。長い人生なんだから」

 うあ、目が笑ってないコイツ。
 
 うすら寒い空気が吹き抜け、フィアは、輝いた表情のまま硬直していた。

「そんなことより、解決策を考えよう」
「無事人里に着くことを願いながら歩くしかないだろ」

 素早く切り返すと、クノンもそれ以外思いつかなかったのだろう、考えこんだ様子のまま、微動だにしなかった。はぁ、とカシスはため息をついた。

「短い人生だったな、御互い」
「…… いっそ、此処に住もうか」
「断る。こんな災厄女、ツラもみたくねぇ」

 吐き捨てると、フィアが口を尖らせたまま俯いた。

「……わざとじゃないもん」
「わざとじゃなければなんでも許されると思うなよ!」

 これだから、子どもは嫌なんだ。拗ねていれば回りが解決してくれると思っているのか。

 きっ、と気丈にもフィアが睨み返してきた。

「わかったわよ、なんとかすればいいんでしょ!?」
「ほぉぉ、どうするって!?」

 口先だけならなんとでも言える。嫌味をこめて聞き返すと、フィアは空の彼方を指差した。

「私が独りで街だか村だか探してくるわ。あんたたちはここでずっと、イヤミでも言い合ってればいいわ!」
「マジでか。悪ぃな、わざわざ」
「あんたなんか大っ嫌い!」

 憎たらしく叫ぶと、フィアは頭上を振りかぶる。

 天を塞ぐ木々の隙間を見極め、高らかに詠唱した。

『踊れ、踊れ、猛る者よ、荒ぶる風を我に授けよ―― ウィンドルア!』

 彼女に向かって、風が強く吹いた。

 目をかばった一瞬のうちにフィアは姿を消し、後に残ったのは、巻き上がった埃と木の葉、彼女が揺らしたと思われる木々のさえずりだけだった。

「便利なヤツだなぁ……」
「さすがに、あんな真似は彼女じゃないと無理だしね」

 二人揃って頭上を見上げていると、クノンがぽつりとそんなことをいった。

「なんで? 別に二人掛かりで方向探せば早いんじゃないかとか、そういうことじゃないからな」
「…… ええと。期待を裏切るようで申し訳ないけど、長距離の飛行なんて真似ができるのは彼女が龍族だからだよ」
「魔道師と何が違うんだ?」

 カシスからみれば、同じように見える。生まれつき、不思議な力を使える連中だ。

「根本的な違いは、“血の盟約”」
「うん?」

 クノンが呟いた聴きなれない言葉に耳をそばだてる。クノンは言い直さず、そのまま続けた。

「彼女が使役している力は、僕らのファカルティとは違う。龍の眷属であるということ、その証としての血が源なんだ」
「ふーん……」
「存在そのものが奇跡なんだよ、彼女は。だから、僕らよりもできることが多いんだ」
「そんなもんか」

 とにかく、魔道師から見ても、龍族というものは特別な存在らしい。

「ところで、カシス」
「なんだ?」
「これから、何があってもあまり驚かないでほしい」
「あん?」

 クノンは明後日の方向に歩き出した。何をするか、と思って見守っていると、急にどこかに向かって杖を振りかざした。





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なんだかんだでフィアは元気です。
で、またしばらく更新できません、すみません。

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