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エイプリルフールという面白いイベントを見事にスルーしてしまい、新年度早々やる気が萎えてました。
ともあれやっと続き書きましたよ~;;
えらい長い上に読みにくいです。申し訳ない…
03/24投稿文の続き。
CHILDREN OF GROUND
第3章 山上の宴唄
7:ななつ なみだのわかれをつげるなら
ノックの後、扉から姿を現したのは、やはり見覚えのある顔だった。鳶色の髪に、白髪の色がだいぶ増えたようだ。髭も整えられているが、豊に蓄えられていた。
「これはこれは…… ローファン子爵」
クノンは立ち上がって一礼した。
エルドア・ローファン子爵。何度か、コーフォリア公爵の屋敷で見かけたことある。
コーフォリア家は、広大な沃土を誇るスヴァヌ地方を統べる。その血は、古くは王族に繋がるとされる由緒正しい上流貴族だ。そのコーフォリア家に仕え、領境の農村を管理しているのがローファン家である。
優雅に部屋を横切り、上座のソファに腰掛ける子爵の姿を眺めながら、クノンはリオルト男爵とコーフォリア家の繋がりをやっと思い出した。リオルト家はコーフォリア家と直接の接点を持たないが、ローファン家とは血縁がある―― そんな話を耳に挟んだことはある。
子爵が座ったところでクノンも座る。そうした儀礼的な動作をしながら、子爵が何故この館に居るのか、そればかり考えていた。
この山上の位置は、コーフォリア家領土の辺境ではあるが、直接統治下ではない。グレーゾーンと言ってもいい。コーフォリア家と、隣の領土を治めるサムリア家とは現状友好を保っているので、領境は曖昧のまま、放置されている無法地帯だ。領境を監視しているローファン子爵なら、視察ということも考えられなくはない。
だが、それにしても……
(揃いすぎている)
ローファン子爵。リオルト男爵。そして、カストマイダー侯爵嫡男として自分。
山奥の娼館だ。そうそう頻繁に訪れる場所でもあるまい。にもかかわらず、自分が此処に来るのを見計らったかのようだ。否、元々何か目的があって集まったところに、自分が飛び込んでしまったといったところか。予感が嫌なにおいとなって鼻に付いた。クノンは顔に出ないように注意した。
ローファン子爵は男爵が注いだ酒杯を掲げた。微笑みながら、クノンも杯を掲げる。何に微笑んでいるのか、自分でも分からなかったが。
クノンは一口飲んだ程度で済ませたが、子爵は一気に飲み干した。手酌で、さらに杯を満たしている。
「ところで、あなたは《聖法使い》という言葉をご存知ですか?」
子爵が唐突に話しを切り出した。話の先が読めず、ただクノンは頷いた。
「聞き及んではいます。生まれついて、特殊な力を駆使することができるとか」
「彼らの持つ力は大変すばらしい。時として、未来を見通すこともあるそうですよ」
「未来を?」
初耳だ。とはいえ、クノンも特異能力についてそれほど詳しくはない。いまだ謎に包まれている異能のひとつに、未来予知の能力があったとしても不思議ではない。つい先日、龍の実在をこの目で確かめたばかりのクノンにとっては――
(龍……)
クノンの脳裏に閃くものがあった。ぞっとするほどの緊張が背筋に走る。そんな彼の心境とは裏腹に、子爵はくつろいだ様子で話を続けた。
「ごく稀に、ですが」
「御詳しいのですね、ローファン卿」
話を合わせる。
「聖法使いのような特殊な人種を、なかなか高値で…… 雇いたいという知り合いが多くてね」
「なるほど」
微妙な間は、本当は『雇う』ではなく『買い取る』といったことを言いかけたからではないか。
ローファン子爵の目が、異様な輝きを帯びているのは、照明のせいだけではあるまい。
「才能が辺野に埋もれてしまうのは、我々の領土にとっても損失だ。私はね、副業としてそういう異能を持つ者たちの斡旋を行っているのだよ」
「斡旋、ですか」
「そう。辺境で見つかった異能者に、彼らの才能を十二分に発揮できる職場を提供している」
「それは…… すばらしい」
適当に頷きながら、暗に含んでいるねっとりとした響きの正体をクノンは探った。
雇う。斡旋。
要は言い様だ。実態は、人身売買や誘拐に近いはずだ。
まさか、こんなあからさまな違法がコーフォリア家の足元で行われているなどと、誰が想像するだろう。
「では、今日は、斡旋の御仕事でこちらまでいらしたのですか?」
クノンの問いかけに、ローファン子爵が口を歪ませた。老いた顔に刻まれた皺がさらに濃くなり、満面の笑みになる。
「なかなか有能な娘ですよ」
「有能というと、どのような」
「旅の娘なのですが。ここからもう少し南の宿場町で、聖法を使って騒ぎを起こしたそうです」
「騒ぎ、ですか」
クノンは眉根を寄せた。いつか耳にしたような話。どこかで目にしたような出来事。
「荒っぽい話しですがね、聖法をそこまで巧妙に使いこなせる人材は、なかなか居りません」
「それほどの使い手が、雇われることに納得しましたか?」
聖法使いの旅の娘なんて、そうそういるはずがない。クノンははっきりとひとりの女性を思い浮かべた。最後に見たのは、ひとりで酒場に入っていくところだ。ひとりにすべきではなかった。
「それはもちろん。快諾してくれましたよ」
「本当に?」
クノンの言葉に、子爵は黙ってみつめ返してきた。
リオルト男爵は口をはさむ気配はなく、じっとクノンの反応をうかがっている。
子爵は口元に笑みを浮かべたまま、くゆらせていたワインを口に含む。
「ところで、ミレアお嬢様がお屋敷を離れて、もう1年ですかね」
「……1年半ですね」
話しの方向が変わったが、クノンはあえて正さなかった。
彼女の名前をこんなところで耳にするとは思わなかった。彼女の元を離れて―― クノンが実家から離れてそんなに経つのか、とも思うし、たった1年半か、とも感じる。感傷に浸っている場合ではないが。
「まさかこんなところで、貴方にお会いするとは思いませんでしたよ」
「僕も、同感です」
「公爵様もご興味あそばすでしょうな」
子爵が意味深げにねっとりと言った。
追随するように、男爵がぼそりと付け加える。
「コーフォリア家の令嬢と婚約し、自らの家に引き取っている貴方が、こんな娼館にいるとは、なかなか興味深い」
カストマイダー家は、成り上がりの爵位だ。貴族の中でもそれほど重視されていないし、侯爵位ではあるが領土は小さい。港湾を利用した商業が功を奏し、資金力の強さで現在の地位を維持しているようなものだ。よってコーフォリア家のような由緒正しい血筋と血縁を結ぶことは、今後大きな益になる。だが、それぞれ権力面と経済面で大きな力を持つ両家が結束することを快く思わない者も居るということを、クノンは分かっていた。また、時間や労力をかけて築いた絆が、簡単な情のもつれから破綻することがあることも、何とはなしに知っていた。
子爵が歌うように続ける。
「ただ…… 誠実な公爵は、快くは思われないでしょうなぁ」
「そうですね。人身売買のような副業も、公爵のお気に召さないと思います」
場の温度が下がるのが、手に取るようにわかる。
クノンは観念したように、体の前で手を組んだ。少し間をおいて、切り出す。
「今の僕は、通りすがりのならず者だと思うのですが」
「今更、何を――」
ローファン子爵が鼻で笑った。それを視線で嗜めたのはリオルト男爵だった。
肩をすくめて、クノンは続けた。
「僕が何者か示すものは、ひとつも持っていません」
「ふむ…… 言われてみればそうかもしれませんね」
男爵が頷いた。クノンの言わんとしていることがわかっている様子だった。
「ここで何があろうと、実家には関係ありませんし、公爵様にお話することもまずないでしょう ……ここで違法な取引は何もなかったし、クノン・カストマイダーはここに来なかった。そうでしょう?」
「さすがは。ご理解いただけて何よりです」
満足そうな男爵のその一言がすべてを裏付けた。
クノンが娼館に居た事実。それに少し脚色を加えて公爵に報告すれば、カストマイダー家との不和の要因になりうる。そして、両家の不和はカストマイダー家にとって痛手であるのは正しい見解だ。
同時に、クノンは違法な取引現場の目撃者でもある。彼らが攫った少女は、クノンの同行者なのだ。コーフォリア公爵と面識のあるクノンが直接証言すれば、ローファン子爵の副業など簡単に白日の下に晒されることになる。
クノンにしろ子爵にしろ、御互いを告発しても利益がない。そうなれば、御互いに何もなかったことにするほうがいい。わかりやすい筋書きだ。
「では仮に」
微笑みながら、手を広げる。
「ここでもし万が一、通りすがりのならず者が騒動を起こしたとして…… 誰も訪れなかったのですから、追っ手がかかることもありませんね? 今夜は何もなかったことになるのでしょう?」
子爵も男爵も、呆気に取られた様子だった。
友人を見放すほど、道理を見失ってはいない。若いと思って侮られるのも不本意だ。
「そうですよね? 万が一、騒動の主犯を追跡するなら、ここで何かがあったことを認めざるを得ないわけですし」
友人を見放すほど、道理を見失ってはいない。若いと思って侮られるのも不本意だ。
「そうですよね? 万が一、騒動の主犯を追跡するなら、ここで何かがあったことを認めざるを得ないわけですし」
「何を」
男爵の顔が引きつる。それを遮って、一息に告げる。
「追跡に人員を割くのであれば、自然公爵の耳に入るでしょう。もちろん、僕から一筆差し上げてもよいのです」
変な気分だ。クノン・カストマイダーは此処にいない前提で話をしているのに、僕は此処にいる。此処にいて、此処にいない風に話すのは、いい大人に御伽噺でも聞かせているようでむずがゆい。
「でも、何もなかったことになるわけですから。ご報告する内容もありませんね」
ね? と念を押す。
若造のゴシップと、違法な人身売買と、秤に載せるものの格が違いすぎることに、やっときづいたのだろう。子爵は、苦々しそうにこちらをにらみやった。
「もし、騒動があったら、という話だが」
男爵が、落ち着いたまなざしを向けた。猛禽類を思わせる、鋭い輝きがちらりと光った。
「この館でそんな狼藉がまかりとおると思うのかね? 犯人が、無事で済むとも? 追跡の手がかかるよりも前に、この館から出ることも叶わないとは考えられないかね?」
つまりは、命を取ることも厭わない、ということだろう。
たしかに、堂々と追いかける義理もないわけだから、半端に秘密を握られたまま野放しにするぐらいなら公爵に悟られない範疇で内々に始末したほうが後々都合も良い。現にクノンは放浪の身で、旅先での不慮の事故死などよくある話だ。殺したところで後もつかない。噂通りのリオルト男爵ならそれぐらいのことはするだろう。
「こちらとしては『この館から出る者はいなかった』という筋書きも用意できるのですよ、若殿」
「その筋書きはナンセンスですよ、男爵」
脅しに関わらず、クノンは笑ってしまった。
「ほう。なぜそう思う?」
侮られていると感じたか、不服そうに男爵が頬を引きつらせた。
そのとき館が揺れた。ドン、という重低音が響くと同時、ぐらぐらと家具がゆれ、テーブルのグラスがカタカタと震えた。
「なんだ!? 今のは……」
子爵が思わず口走った。クノンは動じなかった。頃合だとは思っていたし、必ずこういう結果になると予想は付いていた。
揺れはすぐにおさまったが、足の細いグラスはいまだカタカタとなっていた。揺れを止めるため杯を持ち上げ、ついでにワインを口に運ぶ。
「うん。飲みなれれば癖になりそうです」
最初は渋く感じたワインだが、よくよく味わえば深みのある薫りがある。
「できれば、またここのワインを飲みに来たいものです」
いまだ何が起こったか理解が及ばない様子の二人に、微笑みを投げかける。
クノンは杯をおいた手で傍らの杖をとり、ソファを立った。
「『そもそも館などなかった』という筋書きは、さすがの僕も気が引けますから」
「なんだと?」
「あなた方は彼女の力を見誤っている。龍の逆鱗に触れて身を滅ぼすようなものだ」
冷たくあしらって、足早にドアに向かう。
「ど、何処へいく?」
子爵の声に、肩越しに振り返る。
「館が根こそぎ吹き飛ばされる前に、止めに行かないと」
「今の揺れが、あの娘の力だというのか?」
さあ? と意味ありげに小首を傾げる。たぶんフィアの所業だろうが、根拠はない。でもそう思わせておいて損はないだろう。
「多少、館が傷むかもしれませんが…… なかったことにしてくださいね?」
ドアを開けて廊下に出る。
放蕩息子が娼館に―― たしかに耳あたりはよくない。だが、それがどうした、というのが本音だ。ゴシップにもならない。ましてや商売道具にも。王都の友人に言わせれば、『遊びのうちにも入らない』だろう。堅実な公爵が、浮ついた話を好まないのは承知しているが、その程度で破局するほど両家の繋がりは細くない。むしろ、その事実を耳にして慌てるのはおそらく公爵のほうだ。まったくわかっていない。これだから、何もしらない田舎者は困る。
とはいえ、男爵の抜け目のなさを確認できたのは収穫だった。リオルトの手は既に公爵の足元まで及んでいる。嫌な兆しだ。せめて父には報告したほうが良いだろう。約束の時間には早いが、一度家に帰ってみようか。僕が娼館で遊んでいたといったら、彼女がなんというのか楽しみだ。
(ま、相手にされないのがオチかな)
がちゃり、と重い音を立てて扉が閉まる。
紫の導衣を翻し、クノンは薄暗い廊下を足早に進んだ。
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家名がいっぱい出てきて面倒くさい。
いずれ整理して書き直したい。
つづいてください。
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