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学校が始まりましたが、まだ講義に一度も出ていません。
私悪くないもん! 就活と不景気が悪いのよ!
04/06投稿分のつづき
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CHILDREN OF GROUND
第3章 山上の宴唄
8:やっつ やいてください このからだ
別棟であるというカシスの推測は当たっていた。エトは、カシスを連れてさらに下層に降り、さらに建物の端の階段に連れて行った。
カシスの数え方が間違っていなければ、ここは2階だ。3階へ通じる昇りの階段と、さらに1階へ通じる降りの階段があり、エトは昇り階段のほうを示した。
ごく普通の階段にしか見えない。
「……どこだって?」
「カーペットをめくって」
階段には、分厚いカーペットが丁寧に敷かれていた。普通、こういうものは動かない仕様になっているはずだが、留め金はなく、カーペットがずれないようにつけられた錘は思いのほか簡単にどけることができた。
「この階段、全く使われてないの。見せ掛けだけ」
埃っぽいカーペットを捲り上げると、四角に切り取られ、切れ目の入った段があった。留め金で固定されている。
「まさか、開くのか、これ?」
エトは黙って階段に触れると、留め金を外した。
階段は軋んだ音を立てる事無く、切れ目の入った部分だけが静かに、ゆっくりと中に倒れて行った。
階段に、人の背丈の半分ほどの穴が空いた。その先は地下室になっているようだ。中に倒れこんだ部分が、降りるための階段となった。
「隠し部屋か。手の込んだことだね」
突然の声に驚いて振り返る。思わず剣の柄に手が伸びる。そこにいたのは、栗色の髪をした童顔の少年だった。
「クノン」
見知った顔に、張り詰めた息を吐く。エトは完全に怯えきった表情で口元に手を当て、目を白黒させていたが、味方だと気づくと胸を撫で下ろした。
「どうしてここがわかったの?」
エトの問いかけにクノンは簡単に答えた。
カシスが訝しげに見つめていると、クノンが肩を竦めた。
「もうちょっと正確に言うと、ファカルティの気配かな」
甘ったるい匂いが鼻についた。薄闇でよくわからないが、クノンの目の輝きが、いつもと違うように見える。クノンは少し小首を傾げると、解れた笑顔で言った。
「上等なワイン驕ってもらってた」
カシスはクノンに詰め寄った。まじまじと少年を見つめる。
「大丈夫か? その、ヘンなこと、されなかったか? 嫌な思いをしたんじゃないのか?」
思わず、ふらりとよろめく。
自分の都合で、仲間を危険な目に合わせて、あまつさえそんな辱めまで味あわせてしまうとは……!!
「ごめんな…… せめて俺が付いていれば…… ごめんなっ」
さらりと流すと、クノンはさっさと隠し部屋に入り始めた。
「クノン?」
カシスが問うと、クノンは肩越しに振り返った。
「それもある。ここら辺一体、異様にファカルティが濃い」
なんだか落ち着かない様子ではある。魔道師にしかわからない感覚なのだろうか。ファカルティが濃い、と言われてもカシスにはぴんとこなかった。それが伝わったのか、クノンが言い直した。
「なんというのかな、霊感みたいなものでさ…… まるで《沈黙の森》に入ったときみたいだ」
その言葉は、嫌なものを連想させた。
「フィアに、何かあったとでも?」
背中が粟立つような気がした。
その背を、誰かがそっと触れた。見ると、エトだった。声を殺して、入り口を示した。
「長居は無用よ。見つかる前に、中に」
促されて降りる。中は暗く、天井は低かった。クノンはともかく、カシスは少し腰をかがめないと歩きづらい。クノンのがカシスの袖を引っ張った。少年が示す先を見ると、細長く通路になっており、そのさきに明かりが見える。突き当たりの先に部屋があるようにみえた。
そのとき、背後で小さな音がした。振り返ると、階段が浮き始め、また元のように閉じていく。
エトは降りてきていなかった。
「エト、どうした?」
引き返して、まだ締まりきらない入り口の先に彼女を見つける。エトは顔覗かせると、首を横に振った。口元に微笑が浮かんでいた。
「ここを片付けないと。仕掛けの秘密を知っているのは、この館でもごく僅か。ばれてしまっては、わざわざ案内した意味がないわ」
「何言ってんだ」
ここまで来て、彼女ひとり残すなんて危険すぎる。カシスをここに連れてきたことは裏切り行為のはずだ。戻って無事に済むはずがない。
「一緒に逃げよう」
カシスは閉まっていく階段を掴んだ。簡単な仕掛けのようでいて、その力は思いのほか強かった。抑えられそうにない。
エトはふふっと、笑った。ブラウンの瞳が、細められた目の奥で揺れた。
「いいから、早く行きなさい」
エトはからだの前で腕を組んだ。彼女が隠し扉を閉じているわけではない。階段の手すりの装飾のひとつがレバーとなっていて、それを倒すと自動で扉が閉まる仕掛けなのだ。
「またね。いつかきっと、きっとまた逢いましょ」
カシスが両手を使って体重をかけても、扉は閉じていく。
「愛してるわ、カシス。ギルによろしくね」
力に抗えず、カシスの手が滑った。
ぱたっ、と意外にも軽い音を立てて扉が閉じた。
* * *
思えば罪深い一生だった。でもその一生の中に、彼が立ち会ってくれた。
たとえこれから地獄の業火に身を焦がすのだとしても、何も悔いはない。すべて甘んじて受け容れよう。
ショールに付いた埃を払い、廊下に出る。そこに誰か居ることはわかっていた。片付けが終わるまで、待っていたのだろうか。
「お別れは済んだかい?」
そう、きっとこうなることは分かっていた。
それでも、あなたに会えて本当に良かった。
でもきっと、生まれ変わってまた巡り合えたら、今度こそ、私といっしょに居てね。
私は、ずっと、待っているから。あなたが、私を抱きしめてくれるその日を。
さようなら。心から、愛しているわ。
---------------------------------------------------------------
つづく。
第3章 山上の宴唄
8:やっつ やいてください このからだ
「ここよ」
エトが示したのは、階段だった。
別棟であるというカシスの推測は当たっていた。エトは、カシスを連れてさらに下層に降り、さらに建物の端の階段に連れて行った。
カシスの数え方が間違っていなければ、ここは2階だ。3階へ通じる昇りの階段と、さらに1階へ通じる降りの階段があり、エトは昇り階段のほうを示した。
ごく普通の階段にしか見えない。
「……どこだって?」
「カーペットをめくって」
階段には、分厚いカーペットが丁寧に敷かれていた。普通、こういうものは動かない仕様になっているはずだが、留め金はなく、カーペットがずれないようにつけられた錘は思いのほか簡単にどけることができた。
「この階段、全く使われてないの。見せ掛けだけ」
「通りで無駄に奥まったところにあると思ったよ」
埃っぽいカーペットを捲り上げると、四角に切り取られ、切れ目の入った段があった。留め金で固定されている。
「まさか、開くのか、これ?」
エトは黙って階段に触れると、留め金を外した。
階段は軋んだ音を立てる事無く、切れ目の入った部分だけが静かに、ゆっくりと中に倒れて行った。
階段に、人の背丈の半分ほどの穴が空いた。その先は地下室になっているようだ。中に倒れこんだ部分が、降りるための階段となった。
「隠し部屋か。手の込んだことだね」
突然の声に驚いて振り返る。思わず剣の柄に手が伸びる。そこにいたのは、栗色の髪をした童顔の少年だった。
「クノン」
見知った顔に、張り詰めた息を吐く。エトは完全に怯えきった表情で口元に手を当て、目を白黒させていたが、味方だと気づくと胸を撫で下ろした。
「どうしてここがわかったの?」
「魔道師の勘、ってところかな」
エトの問いかけにクノンは簡単に答えた。
カシスが訝しげに見つめていると、クノンが肩を竦めた。
「もうちょっと正確に言うと、ファカルティの気配かな」
「フィアの気配がするっていうのか?」
「そんなところ」
「……というか、お前何処に行ってたんだ? なんか酒臭いぞ」
甘ったるい匂いが鼻についた。薄闇でよくわからないが、クノンの目の輝きが、いつもと違うように見える。クノンは少し小首を傾げると、解れた笑顔で言った。
「上等なワイン驕ってもらってた」
「驕ってもらったって、誰に?」
「おじさん達」
「おじさん達」
カシスはクノンに詰め寄った。まじまじと少年を見つめる。
「大丈夫か? その、ヘンなこと、されなかったか? 嫌な思いをしたんじゃないのか?」
「別に、言うほどのことは。そのかわり、良い収穫があったよ」
「収穫?」
「普段なかなか知れない世界を知ることができたっていうか」
思わず、ふらりとよろめく。
自分の都合で、仲間を危険な目に合わせて、あまつさえそんな辱めまで味あわせてしまうとは……!!
「ごめんな…… せめて俺が付いていれば…… ごめんなっ」
「なんだか過分に妄想を含んでいないかい?」
さらりと流すと、クノンはさっさと隠し部屋に入り始めた。
「クノン?」
「急ごう。嫌な感じがする」
「どういう意味だ? さっきの揺れのことか?」
カシスが問うと、クノンは肩越しに振り返った。
「それもある。ここら辺一体、異様にファカルティが濃い」
なんだか落ち着かない様子ではある。魔道師にしかわからない感覚なのだろうか。ファカルティが濃い、と言われてもカシスにはぴんとこなかった。それが伝わったのか、クノンが言い直した。
「なんというのかな、霊感みたいなものでさ…… まるで《沈黙の森》に入ったときみたいだ」
その言葉は、嫌なものを連想させた。
「フィアに、何かあったとでも?」
「そうかもしれない」
背中が粟立つような気がした。
その背を、誰かがそっと触れた。見ると、エトだった。声を殺して、入り口を示した。
「長居は無用よ。見つかる前に、中に」
促されて降りる。中は暗く、天井は低かった。クノンはともかく、カシスは少し腰をかがめないと歩きづらい。クノンのがカシスの袖を引っ張った。少年が示す先を見ると、細長く通路になっており、そのさきに明かりが見える。突き当たりの先に部屋があるようにみえた。
そのとき、背後で小さな音がした。振り返ると、階段が浮き始め、また元のように閉じていく。
エトは降りてきていなかった。
「エト、どうした?」
引き返して、まだ締まりきらない入り口の先に彼女を見つける。エトは顔覗かせると、首を横に振った。口元に微笑が浮かんでいた。
「ここを片付けないと。仕掛けの秘密を知っているのは、この館でもごく僅か。ばれてしまっては、わざわざ案内した意味がないわ」
「何言ってんだ」
ここまで来て、彼女ひとり残すなんて危険すぎる。カシスをここに連れてきたことは裏切り行為のはずだ。戻って無事に済むはずがない。
「一緒に逃げよう」
カシスは閉まっていく階段を掴んだ。簡単な仕掛けのようでいて、その力は思いのほか強かった。抑えられそうにない。
エトはふふっと、笑った。ブラウンの瞳が、細められた目の奥で揺れた。
「いいから、早く行きなさい」
「だから、一緒に――」
「何もかもを選ぶことはできないのよ、カシス。覚悟しなさい」
エトはからだの前で腕を組んだ。彼女が隠し扉を閉じているわけではない。階段の手すりの装飾のひとつがレバーとなっていて、それを倒すと自動で扉が閉まる仕掛けなのだ。
「またね。いつかきっと、きっとまた逢いましょ」
「エト!!」
カシスが両手を使って体重をかけても、扉は閉じていく。
「愛してるわ、カシス。ギルによろしくね」
力に抗えず、カシスの手が滑った。
ぱたっ、と意外にも軽い音を立てて扉が閉じた。
* * *
エトは、すばやく片付けた。何回も、この隠し扉を開けて、中に運ばれるものを見つめ、そして扉を閉めた。慣れもする。あっという間に元の階段に戻る。
でもそれも、これが最後になる。
でもそれも、これが最後になる。
思えば罪深い一生だった。でもその一生の中に、彼が立ち会ってくれた。
たとえこれから地獄の業火に身を焦がすのだとしても、何も悔いはない。すべて甘んじて受け容れよう。
ショールに付いた埃を払い、廊下に出る。そこに誰か居ることはわかっていた。片付けが終わるまで、待っていたのだろうか。
「お別れは済んだかい?」
そう、きっとこうなることは分かっていた。
それでも、あなたに会えて本当に良かった。
でもきっと、生まれ変わってまた巡り合えたら、今度こそ、私といっしょに居てね。
私は、ずっと、待っているから。あなたが、私を抱きしめてくれるその日を。
さようなら。心から、愛しているわ。
---------------------------------------------------------------
つづく。
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