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つづきこうしーん
CHILDRENOFGROUND
第4章 千年の森
2:
第4章 千年の森
2:
『浩々たる空隙より現れよ ――ファランゾルン!』
純白の閃光が蒼穹を割る。
放った光は、標的に当たることなく、空へと飲み込まれ消えていく。
舌打ちも、胸中で悪態を吐く暇さえもない。息を吸い、口早に言霊を唱え、その場から離脱する。加速する景色の中、血の気が下がり視界が暗くなる。その目前を、尖った爪が、鋭い牙が、そして巨大な影が通り過ぎていく。
(なんで――)
声にならない悲鳴が、全身を震わせた。
距離をとって、空中に静止すると、それは大きな翼をはためかせ舞い上がった。
陽光を受けて、緑の鱗が宝玉のように煌く。
その全身を視界におさめて、フィアは確信した。
龍だ。
龍の眷属の一位に座し、風を司る者。嵐龍。ウィンドルア。
龍が、フィアに向かって大きな口を開いた。咆哮が轟き、鼓膜がびりびりと震えた。
(どうして嵐龍がここにいて、私を襲うわけ!?)
突然現れ、突然襲い掛かってきたのだ。
語りかけてくる様子もなく、フィアの呼びかけにも応えない。心を閉ざしているのか、あるいは失ったか、それとも知らぬうちにフィアが龍の逆鱗に触れたのか。凶悪な殺意だけは伝わってくる。
こうなってしまったら、もう逃げなくては。争って勝てる相手ではない。《沈黙の森》でみつけた坤龍のような、実体を失くした影とはわけが違う。
フィアは嵐龍に背を向けると、全速力で下降した。ここではだめだ。隠れるところもない。森の中に入れば、まだ逃げる勝算はあるだろう。あの巨躯だ。狭い木々のなかまで追ってこられまい。
下に向かって落ちる感覚に、全身の肌が粟立つ。逃げる様子に気づいたのだろう、龍の咆哮がもう一度響く。歯を食いしばって、霞む視界の先を睨む。焦りのせいか、ひどく森が遠くに感じられる。それほど高い位置にいたわけでもないはずなのに。だが、一向に森が近づく気がしない。
(逃げられない)
はっとして方向を変える。左に折れると、彼女のすぐそばを無数の真空の刃が通り過ぎていった。その余波を肌に感じ、ぞっとしながら天高く舞い上がる。
(駄目だ、閉じ込められている!)
範囲まではわからないが、空間が閉じている。絶大な力を誇る龍だ、想像を超える現象が起こったとて不思議はない。フィアを逃がすつもりがないらしい。
(こんなところで)
やっと龍を見つけたのに。その龍に、殺されるなんて。
何がなにかも分からないまま、ここで死ぬ。
嵐龍が巨躯を素早く翻し、一直線にフィアに向かってくる。
間に合わない。龍の赤い双眸を、フィアはじっと見据えた。
どうして、私を殺そうとするの?
あのときは助けてくれたじゃないか。
「イド……」
口をついて出た囁きが、最後の呪文を奪った。
龍が眼前に迫り、日の光を遮った。
衝撃に貫かれ、身体がばらばらに砕け散った。
睡魔に襲われたように、意識がなくなり、力が抜ける。
落ちる。
がくん、と身体が揺れる感覚があった。
まるで、水に落ちたかのように、ふわりと身体軽くなり、呼吸ができなくなる。肺がちぎれたのだろうか。もう息をする必要もない……
水泡がはじける音。
そうか、死ぬってこんな感じなのか。
ああ、どうしよう。
(私が戻らなかったら、あいつら、この森でのたれ死ぬのかしら……)
死際に仲間を思うヒロイン。
なんてオトコマエ。
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