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ブログの見方を変えてみました。昇順から降順に。
かえって見づらい。かもしれない。
そんなこんなでつづき更新です! 
「つづきはこちら」からどうぞ!



CHILDRENOFGROUND
第4章 千年の森



3:


 風上に逃れて、少なくとも魔物の匂いが来ない場所まで避難する。距離にして50メートルも離れてない。フィアが戻ってくれば、見てわかる距離だ。
 
 だから、気づかないはずがない。彼女が戻ってきたのなら。

「……遅いな」

 さすがに疲れて、荷を降ろし、木にもたれかかるようにして座りこんでいた。だが、この姿勢からもう半刻は経っているだろう。先の戦闘も含め、ただ方角を見ているにしては時間がかかりすぎだ。

「カシス、何回目?」

 同じように近場に座り込んでいるクノンがぼやいた。ハイルは、クノンと向き合うような位置で座り込んでいる。

 他人事のようなクノンに、カシスは多少の苛立ちを覚えた。

「お前なぁ…… もとはといえば誰のせいだよ。変な内輪もめに巻き込みやがって」
「そうだけど……」

 もごもごとクノンが口籠った。

 舌打ちする。カシスは、クノンが不安を感じていることはわかっていた。クノンとて、フィアを心配していないわけではない。ましてや負い目を感じていないわけでも。いつも冷静な少年も、先程から浮かない顔色だ。

 クノンをみると、膝を抱えて顔を埋めている。カシスは深呼吸して、認めた。この苛立ちは、ただのやつあたりだ。

「そういえば、結局なんなんだ?」

 カシスはハイルをあごでしゃくった。あまり品のよい仕草ではない。嫌そうにハイルが眉をひそめた。

 クノンが気遣わしげな視線を向けてきた。

「……コンパスに細工したのは本当に悪かったと思ってるよ。巻き込んでごめん」

 謝るなら、フィアにしろよ―― という言葉をカシスは飲み込んだ。自分が何を言ったところで、どうしようもない。なにより、クノンも同じことを考えているはずだ。

「それはいいさ。俺だって巻き込んだわけだしな」

 カシスは鼻の頭を掻いた。人のことをとやかく言えた義理ではない。先の娼館での騒動を思い出すと、ばつが悪かった。

「まぁ、会ったときから、なんとなくそんな気はしてた」

 気持ちを切り替えて、カシスがそう言うと、クノンは目を丸くした。

 クノンの身の上を訊ねたことはない。が、なんとなく育ちのよさを感じさせる雰囲気を持っていた。

「僕のこと? 気づいていたの?」

 カシスは肩をすくめた。ハイルがちらりと視線だけ投げかけてきたが、それには応えないようにする。

「使える魔法もそこらの魔道師よりも数段格上だしな。でもまぁ、その割にはそれらしいお供もいないし、変なやつだな、と」

 高等な魔導学を習得するには、それなりのアカデミーに進学しなければ無理だ。才能が花開くかどうか難しい魔導学校に子供を進学させるは、豪商や貴族のような、裕福で安定した地位のある家だ。それぐらい誰だって予想つく。

 目を閉じ、木の幹の形に沿うように、背中を伸ばす。荷物の重みに強張った背中が引き伸ばされた。多少緊張が緩む。その姿勢のまま、頭の後ろで手を組みながら、クノンを見ると苦笑していた。

「敵わないね…… 変だと思っても、一緒に旅してくれてたなんて」
「そんなもんだろ、流れ者なんてのは」

 素っ気無く告げる。

 クノンは少しためらってから、顔をあげて、まっすぐカシスを見た。

「改めて名乗るよ。僕は、クノン・カストマイダー。オルトワ地方領主、カストマイダー侯爵の嫡男だ」

 緩んだ背筋が、再び引きつった。

 数秒ほど、思考も止まっていたようだ。それぐらい思いがけない言葉だった。

 侯爵位ということは、貴族のなかでも上級階流だ。普通カシスのような凡人は、一生会うこともないような雲上人だ。

 まさかクノンが貴族だとは、さすがにそこまで考えは至らなかった。しかし、わかった風な口を利いた手前、素直に驚くのは憚られた。咳払いをしてごまかすと、喉の奥からなんとか言葉をひねりだした。

「あー…… つまり、クノンは次期オルトワ領主、ってわけだろ?」
「立場としては」

 ふと、今までのクノンへの扱いがまざまざと思い出される。

 まるで当然のように、小突いたり、怒鳴ったり、荷物持ちをさせたり―― 

(出るところに出れば、俺は罰せられるんじゃないのか?)

 さあっ、と血の気が引く。

 青ざめたカシスを気に留めることもなく、クノンは肩をすくめた。

「訳あって、数年、家から離れる必要があってね」
「『必要』などない。お前が勝手に決めて出て行ったんだろう」

 ハイルがぼそりと付け加えた。取り合うこともなく、クノンはハイルを示して続けた。

「で、こちらが、ハイル・ユーイ・コーフォリア。幼馴染で、僕の婚約者の兄にあたる人だ」
「婚約者って……」

 カシスは呆気にとられた。実感の湧かない話だ。カシスからすれば、この童顔の少年に婚約者がいるなんて、少々気が早い。当のクノンが当然そうな態度をしているので、貴族なんてそんなものだろうと納得することにした。

 旅装束でそうも見えないが、妹がクノンの婚約者ということは、このハイルも同じ貴族なのだろう。

 ハイル・ユーイ・コーフォリア……

 はっとして、カシスは身を乗り出した。ハイルの顔をまじまじとみる。怪訝そうにハイルが眉根を寄せた。

「コーフォリア、だと?」


 



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この話の世界観はどうなってるのかとか、いつかちゃんと書きたいです。
ヒロイン? なんですかそれわ?

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