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CHILDRENOFGROUND
第4章 千年の森
3:



「そうだよ」

 クノンが頷いた。カシスはハイルを指差した。

「コーフォリアって、スヴァヌの大貴族じゃないか? 王族だろ?」
「血筋は、な。王位継承権など、塵ほどもない」

 無表情に、ハイルが答えた。それでも王族に連なる家筋であることに違いないだろう。

 カシスは驚いてクノンとハイルを交互に指差した。

「それが、婚約者?」
「私ではない。私の妹のミレアが、このクノンと婚約しているのだ」
「わかっとるわ」

 要らないことを言うハイルに半眼で毒づく。いちいち面倒な男である。

 すっかり混乱して、カシスは髪の毛をかき混ぜた。まさか、眼前の魔道師の少年がこれほど立場のある人物だとは。短い付き合いだが、クノンには才覚がある。訳ありだか知らないが、今はこんな辺野で実績もなく放浪しているとしても、将来活躍することに疑いない。共に砂埃にまみれ、同じ旅路を歩んだ、このクノンが、である。 

 その要人に、自分がしてきたことといえば……

(オルトワには絶対近づかない…… 処刑される)

 目を閉じ、眉間を押さえながら、カシスは深く胸に誓った。

 ついでにカシスはひとつ疑問を口にした。ハイルに指を向ける

「じゃあ、爵位も立場もあんたのほうが上だろ? それでも『若様』なんて呼んだりするんだな」
「私はいま、カストマイダー家に仕えているのだ」

 向けられたカシスの人差し指を嫌そうに眺めながら、淡々とハイルが答える。

「さすがに四男坊に公爵位は与えられない。家筋がどうであれ、クノンは私の主君の子息だ」
「ハイルは気にしすぎだよ。それ以前に、僕らは幼馴染じゃないか」
「ケジメというものがあるだろう」
「……とりあえず、面倒くさいってのはわかった」

 貴族界の仕組みなんて、所詮カシスの及ばぬところだ。立場とか地位とかいったものが複雑に絡み合っていて、その絡み合いが非常に重要な意味を成している。クノン達が暮らしているのはそういう世界なのだろう。

「それで、お前は何者だ?」

 突然、ハイルがカシスを見据えていった。

「俺? 俺は、別に……」
「名を聞いているのだ」

 言われてみて、そういえばそうか、と気づく。気後れしてどうする。

「カシスだ。出身はカフルのほうだ」

 素っ気無く告げる。気取ったところで大した名でもない。

「それはまた、随分遠くから来たな」
「カシスは、凄く剣が強いんだよ。ハイル」

 クノンが付け足した。ほう、とハイルが感心した声をあげ、しげしげとカシスを眺めた。

「しかし…… とても剣客には見えないな」
「なんだ、弱そうだって言いたいのか?」

 むっとして言い返すと、ハイルは首を振って、さらりと告げた。

「いや、腕は確かなのだろうが、風格がない。なんだか賊の類に見える」
「おい、クノン。お前の兄貴、いちいちむかつくんだけど」

 クノンもそうだが、いまいちこのハイルという男が王族であるという実感がない。

「ハイルは生真面目なだけで、悪気はないんだ。軽く受け流してあげて」

 面白がるようにクノンが言った。

「それで、フィアというのは? はぐれたのか?」

 ハイルの言葉に、カシスとクノンは顔を見合わせた。こんな会話をしていても、彼女が戻ってきた様子はない。

「僕を追ってきたんでしょ、ハイル。どこまで見てたの?」
「会話が聴こえる距離ではなかった。あれは人なのか? 飛んでいくのは見えたが……」
「フィアは《聖法使い》だよ」

 さらりとクノンが言ってのけた。ぎょっとして、カシスは顔をあげた。クノンは気づいた風もなく、続けた。ハイルも驚いて言葉を失っているようだ。

「あれが異能だ。ああいう風に、魔法を越えたようなことも平気でこなす」
「まさか……、本当にいるのか? 聖法使いなんて」
「居るところには居るみたいだよ。……その話はあとで」

 クノンは続けた。カシスはあえて口を挟まなかった。なぜ正直にフィアのことを龍だと言わなかったのか、カシスには分からなかったが、クノンには何か考えがあるはずだ。

「道に迷ったから、フィアに上から方角を見てもらうことになったんだ」
「迷った? 迷ってこんなところに来たのか?」

 ハイルが眉をひそめた。彼はカシスとクノンを見比べた。

「正確には、“道を間違えたことになったから”、かな。ハイルを撒きたかったから、あえて迷うように、コンパスに細工を」

 ハイルが押し黙った。表情のない顔から、さらに表情がなくなったように見える。

「クノン…… お前は何も言わずに、私を撒くためだけにこんな原生林に仲間を連れ込んだのか?」
「敵を騙すには、まず味方からっていうだろ」

 悪びれないクノンの態度に、ハイルが信じられない様子で首を振った。

「なんという…… 相変わらず勝手な奴だな!」
「その点については心から反省しているよ」

 間髪おかず、しれっとした顔でクノンは言い返した。いつものやりとりなのだろう。ハイルは何か言いたそうだったが、それ以上は追求せず、話を元に戻した。

「方角を見ているにしては、時間がかかって――」

 ハイルは急に口をつぐんだ。何か遠くを見ている。

「?」

 ハイルの視線を追うと、先程戦闘があったところだった。

 そこに、一匹の金色の獣が佇んでいた。





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王侯貴族でも気にせずタメ語な主人公。
つづく。

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